伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

ここに幸あり(幸福在這裡)


 「ここに幸あり」は、1956年当時18歳の新人歌手大津美子(おおつ よしこ、1938年1月12日 - )が、同名の映画の主題歌として発表し空前の大ヒットとなった楽曲です。


 作詞は『酒は涙か溜息か』などのヒット曲で戦前から知られていた高橋掬太郎(たかはし きくたろう、1901年(明治34年)4月25日 - 1970年(昭和45年)4月9日)、この詞に大津美子の歌唱指導をしていた大津の恩師である飯田三郎(いいだ さぶろう、1912年(大正元年)12月20日 - 2003年(平成15年)4月24日)が曲を付けた楽曲です。


 歌詞の内容は、映画の主人公で世渡りに苦しむ姉妹の心情を詠じたものですが、先入主を排除して歌詞を読むと、各節の結句がそれぞれ詩的表現になっているので、人それぞれで異なる解釈が可能な余韻のあるものになっています。
 大まかには、人生の幸福とは然程大それたものではなく、誰もが営なむ日々の暮らしの中にあると詠っているように感じられます。
 つまり、「女の人生には雨や嵐のような困難なことが多いが、頼りになる人が傍に居て偶に晴れた青空に恵まれることや、二人で寄り添って白い雲を見上げることなどの、ほんの細やかな出来事こそが幸福なのだ」と主張しているものと解釈できます。
 ただし、第2節の歌詞から読み取れるように、この楽曲は強い男と弱い女というよくある図式を単純に歌ったものではありません。
 戦後の動乱の時代を世間の荒波に抗しながら命がけで生き抜いてきて、心に傷を受けつつも夜の巷で働いている一人の女(映画では妹の方)が、今ここにようやく見つけた幸せについて詠じたものと解釈できます。
 その慎ましやかな幸せに思いを致すとき、この詩は単なる恋歌とは異なり、万感胸に迫るものが有ります。


 大津美子、現在79歳、今でも往年のアルトの歌声が衰えることなく元気に演唱活動を続けています。




222 ここに幸あり ***幸福在這裡字義版



ここに幸あり(幸福在這裡)  
                       詞:高橋掬太郎   曲:飯田三郎
一節
嵐も吹けば 雨も降る      (又是刮強風 又是下大雨)
女の道よ なぜ険し       (女人的路途為何那麼險惡)
君を頼りに 私は生きる     (依賴著你 我就能活下去)
ここに幸あり 青い空      (幸福在這裡 就在那藍天裡)


二節
誰にも言えぬ 爪のあと     (無法向人傾訴)
心に受けた 恋の鳥       (愛情鳥留予內心的爪痕)
鳴いて逃れて 彷徨い行けば   (哭泣 逃避  徬徨 徘徊)
夜の巷の 風哀し        (夜裡巷口的風 竟是那麼淒涼)
 


三節
命のかぎり 呼びかける     (在有生之年 都要呼喚著你)
こだまの果てに 待つは誰    (迴響在山谷盡頭 是誰在等待)
君に寄り添い 明るく仰ぐ    (依偎著你 仰望光明)
ここに幸あり 白い雲      (幸福在這裡 就在那白雲裡)



 蔡幸娟の漢語版はこちら↓