伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

夏日南亭懷辛大

 【孟浩然夏日南亭懷辛大詩意圖】


 「夏日南亭懷辛大(夏日、南亭に辛大を懷う)」は、盛唐の詩人孟浩然作の五言古詩です。
 この詩は、全部で十句からなり、前半六句で南亭(南のあずまや、襄陽城南方の峴山にある峴首亭か?)から見る涼しげな風景を描写し、後半四句で友人の辛大(しんだい)を懐かしむ情を詠じています。
 なお、辛大とは、「辛」が姓で「大」は排行(はいこう)と言われるもので兄弟及び同姓の従兄弟を含めて長幼の順序を示すもので、辛一族の同世代の男子の中での最年長者であることを示しています。


 この詩の淸淡閑雅な趣は、孟浩然の詩の真骨頂とも言えるものです。
 猛暑の候、一服の清涼剤として、各位のご高覧に供します。



 【夏日南亭懷辛大の解説(唐詩三百首)】



(白文)
 夏日南亭懷辛大
             孟浩然
 山光忽西落,池月漸東上。
 散髪乘夕涼,開軒臥閑敞。
 荷風送香氣,竹露滴淸響。
 欲取鳴琴彈,恨無知音賞。
 感此懷故人,中宵勞夢想。



(訓読文)
 夏日、南亭に辛大(しんだい)を懷(おも)ふ


山光 忽ち西に落ち、池月(ちげつ) 漸く東に上る。
髪を散じて夕涼(せきりゃう)に乗じ、軒(まど)を開いて閑敞(かんしゃう)に臥す。
荷風(かふう) 香氣を送り、竹露 淸響(せいきゃう)を滴(したた)らす。
鳴琴(めいきん)を取りて彈ぜむと欲するも、知音(ちいん)の賞するなきを恨む。
此れに感じて故人を懷ひ、中宵(ちゅうせう) 夢想を勞す



【和訳文】
 夏の日、南亭にて辛大(しんだい)を懐(おも)う


山の夕映えは見る間に消えて、池を照らす月が漸く東の空に上ってきた。
髪を解いて夕べの涼風に吹かれ、窓を開けて広々した部屋の中に寝転ぶ。
風は蓮の花の良い香りを送り、竹を滴る露は清き響きを伝える。
琴を取って弾いてみようと思うが、その音を鑑賞できる者のいないのが恨めしい。
だからこそ今ここで親友を懐かしんで、夜中にしきりに君の夢を見ているのだ。



 【伊賀山人印象圖】


 夏日伊賀山居懷朋友~