伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

恰似你的溫柔(あなたの優しさに似て)


 「恰似你的溫柔(あなたの優しさに似て)」は、台湾のソングライター梁弘志( Liang Hongzhi :1957年9月2日-2004年10月30日)が作詞・作曲した楽曲です。
 梁弘志は、校園民歌(學園フォークソング)の代表的作家で、この曲は彼が世界新聞專科學校(現:世新大學)に在学中に作成したものです。


 1979年3月、この曲を当時の新人歌手2名がデビュー曲として歌いました。
 一人は、後に「民歌王子 」の異名をとる潘安邦(Pan An Pang :1961年9月10日ー2013年2月3日)ですが、こちらのほうは殆ど世に知られませんでした。
 その直後に女流フォークソング歌手の蔡琴(Tsai Chin:1957年12月22日-)が歌って大ヒットとなり、現在では彼女のデビュー曲でもありその後のコンサートではしばしばエンディング曲としても演唱される彼女の代表曲となっています。


 歌詞の内容は、離れ離れになっている恋人の再来を待ち望む若者の心情を詠じたものですが、最後の3句は極めて詩的な表現で、歌手の蔡琴自身ですら10年後に梁弘志から直接その真意を聞くまでは意味が解らず演唱していたようです。
 ましてや一般の日本人であれば、一体何が「あなたの優しさ」なのかが理解できませんので、訳詩の最後にやや詳しく解説をしておきます。


 読書各位には、ご自分を南海の孤島に、恋人の再来を海風に、恋人の手を白いさざ波になぞらえて、ご清聴ください。


 47歳の短い生涯で500曲余りの作品を残した梁弘志、昨日10月30日が13回目の命日でした。



 恰似你的溫柔
 あたかもあなたの優しさのように
                   作詞・作曲:梁弘志    演唱:蔡琴
 (前奏)


1節
 某年某月的某一天
 就像一張破碎的臉
 難以開口道再見
 就讓一切走遠

 
ある年ある月のある日
 まるで粉々に砕けたような表情で
 口を開いて「さよなら」を言うのは難しかったけれど
 すぐに何もかもすべてを遠くへと去らせてしまった


 2節
 這不是件容易的事
 我們卻都沒有哭泣
 讓它淡淡的來
 讓它好好的去

 
それは容易な事ではなかったけれど
 却って私たちはどちらもしくしく泣いたりはしなかった
 それ(海風や波しぶき)はぼんやりとして気付かぬうちにやって来て
 同じように何事もなく去って行く


 3節
 到如今年復一年
 我不能停止懷念
 懷念你 懷念從前
 但願那海風再起
 只為那浪花的手
 恰似你的溫柔

 
今まで一年また一年
 私は懐かしく思わずにはいられません
 あなたを懐かしく思い 以前のことを懐かしみます
 ただ只管あの海風が再び吹いてくることを願っています
 ただあの白い波しぶきの手を作ってくれるために
 あたかもあなたの優しさのように


( 間奏)


(1節~3節繰り返し)


 (間奏)


(3節のみ繰り返し) 


( 尾奏)


附記:詞中の詞語について伊賀山人の解釈を幾つか附言しておきます。


「海風」: 海岸地帯では、陸と海との比熱の差により、昼間は海から陸へ向かって風が吹きます。これを「海風」と言います。

 夜間は、逆に陸から海へと「陸風」が吹きます。

 詞中に見える「海風」は、暗くて寂しい夜が明けて、日が昇るにつれて心地よく吹き寄せる南海の海風を表わしており、取りも直さず離れ離れになっている「あなた」の再来を比喩しているものです。


「白い波しぶき」: 海風がそよそよと吹き寄せてくると、浜辺に白いしぶきを立てながら波が寄せてきます。その波が砂浜を撫でる手のように打ち寄せてくる姿を、自分を抱き寄せてくれる「あなた」に擬人化しているものです。


 つまり、「南海の浜辺に吹き寄せる爽やかな風が引き起こす砂浜を撫でる穏やかな白いさざ波」「あなたの優しさ」に例えているのです。




蔡琴 - 恰似你的溫柔 / Just Like Your Tenderness (by Tsai Chin)



蔡琴 Tsai Chin《恰似你的溫柔》