伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

伊賀の昔話


 昔、伊賀の里に一人の忍者が住んでおりました。
 ある吹雪の夜、伊賀山中での修行の帰り道で傷ついて弱っている一羽のツルを助けてやりました。
 翌朝、雪も止んだ頃、忍者の隠れ家に若くて美しい娘がやってきて「お嫁さんにしてください。」と言いました。独り者の忍者は、快く娘を中に入れてやりました。
 娘は、「私がよいと言うまで決して中を覗かないでくださいね。」と言い残して、隣の部屋にこもり、機を織り始めました。
 トントンカラリ、トンカラリ・・トントンカラリ、トンカラリ・・・と、機織りの音は三日三晩続きました。四日目の朝、音はピタッと止みましたが、娘との約束通り、忍者は決して中を覗こうとはしませんでした。
 五日たち、六日たち、一週間を過ぎるころには、さすがに忍者も心配になり、襖の敷居に竹筒の水を垂らして音のせぬようにして、そっと隙間を開けて中を覗いてみました。するとそこに娘の姿はなく、それどころかタンスや長持ち、先祖伝来の鎧兜や槍刀、唯一の道楽で長年集めてきた書画、骨董に至るまで部屋中の一切合財の調度品が消え失せていました。
 忍者は、びっくり仰天して叫びました。
 「しまった~!! あいつはツルじゃ~なかった! サギだったんだ~!!!」


浜の真砂は尽きるとも、世に詐欺人の種は尽きないようです。各位、ご用心ください。