伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

離婚後300日問題(DNA鑑定所感)

 民法第772条に基づき、離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子として扱われることになります。


 この規定は、明治31年頃、民法に加えられたもので、当時は、生物学的な父親を特定する手段がなく、しかも女手一つで子供を育てるのが極めて困難な時代でもありましたので、子供を養育する義務者を法的に特定して、子供が食べるのに困らないようにするため、更には母親の負担を軽減するための規定でした。また、離婚する夫婦も現在とは比較にならぬほど少なかったため、特に問題となることも殆どありませんでした。


 ところが、社会の情勢が変化し離婚率が30%を超える現在においては、この離婚後300日以内に出生する子の数は年間3000人を超えており、その殆どが前夫の子ではないという現実があります。


 離婚後300日以内に生まれた子供の出生届けを提出すると、前夫の子と推定されることから、自動的に前夫の戸籍に入れられてしまいます。当然、姓も前夫の姓になりますので、シングルマザーで育てるにしろ再婚するにしろ甚だ不都合なことが生じます。また、前夫としても、他人の子供が自分の子とされて扶養義務を負うことになり、加えて法定相続人の一人となるなど将来に禍根を残すことになってしまいます。このため、子供の出生届けを出さずに、無戸籍状態になっていて、社会福祉の恩恵を受けられなくなっている子供もいます。これが巷間いわゆる離婚後300日問題です。


 この問題を解決する最も簡単で有力な手段は、前夫から家庭裁判所に対し、「嫡出否認の訴え」を提起することです。DNA鑑定により前夫が遺伝的に父でないことを証明できれば、前夫と子との間に親子関係がないことを裁判によって確定させることが可能です。この裁判には約3箇月の期間を要しますが、確定判決を得ることにより、子の戸籍は前夫から、本来父親であるべき人あるいは母親の戸籍に転籍できます。この際、新たに子の父親になる人のDNA鑑定は不要です。認知するだけで事足ります。ある意味、これは民法の規定が古いが故の利点とも言えます。昔の映画「北の国から」にあったように、蛍が妊娠した不倫の子でも赤の他人の正吉が蛍と結婚して自分の子として戸籍に入れることは何の問題もありません。将来、その子が血縁者である不倫相手の子や孫などと結婚しないように注意しておく必要はあります。


 この嫡出否認の訴えは、子の出生から1年以内に前夫から堤起しなければなりません。今現在、この問題に直面しているお母さんは、速やかに前夫に要求することが必要です。


 人それぞれに事情があります。DVなどで離婚し、あるいは離婚調停中でシェルターなどに避難しているお母さんは、第3者に調停を依頼するとよいでしょう。前夫にとって、他人の子が自分の戸籍に入っていることは、何のメリットもありませんので、必ず、望みどおりの結果になるでしょう。


 なお、不測の事態で望まない妊娠をしたお母さんや真の父親に逃げられてしまいとても自分の力で子供を育てられないお母さんもご心労のあまり、最悪の決断をしてはいけません。養子縁組を無料で斡旋する公益法人も今ではいくつも立ち上がっています。里親になりたい方の方は、全ての諸経費で200万円位を用意することになりますが、実の母親の負担は全くありません。実の子と別れるのは悲しいことですが、本当に子供のことを思うのなら、養子縁組も選択肢の一つでしょう。


 生きとし生けるもの命の重さに差異はありません。出自はどうあろうとも、縁あってこの世に生を受けた子供の人権と福祉と健康を守ることが、お母さんを始めこの国の社会の務めなのです。