伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

這一年 這一夜(この一年 この一夜 : 合唱版)


 《這一年 這一夜》は、音楽の魔術師と謳われた台灣のシンガーソングライター張 雨生(チャン・ユーシャン 1966年6月7日 - 1997年11月12日)が作詞・作曲し、1994年9月5日に《卡拉ok·台北·我》と題するアルバムに収録して発表した楽曲です。


 歌詞の内容は、夕暮れ時の海岸で夕日の沈む光景を見た後、月や銀河や満天の星空の下で、愛する人と過ごした楽しくて幸せな思いのこの1年、更にこの1夜の心情を詠じたものです。
 この詞は、張雨生が大学生の頃に付き合っていた女友達と遊んだ春分の頃の台北の海岸での出来事を思い出して書いたもののようです。


 詩句には唐詩を彷彿させる詩的表現が多く、また現代漢語の慣用句と思われる詩語も多用されているため難解ではありますが、言外の余情を感じさせる深遠な歌詞です。


 曲は、高音王子と称された張 雨生としては、最後のサビ以外は比較的淡々と歌い上げており、音域は1オクターブ半くらいなものです。


 それでも素人にとっては難しい曲ですが、少し頑張って練習すれば歌いこなすことも可能なので合唱曲としてもよく使われています。


 今回は、2010年6月28日に行われた台大(國立臺灣大學)合唱團と高醫(私立高雄醫學大學)聲樂社との聯合音樂會での演唱をご紹介します。
 両校それぞれ100人、合計200人の大合唱で、所謂タテとヨコ(時程と音程)を合わせるだけでも大変な作業です。
 合唱後の観客の大歓声が、この曲が如何に難しかったかを示しています。


 なお、動画の中に「(櫻井弘二編曲)」との表記が見えますが、櫻井弘二は台湾在住25年50歳になる日本人で、台灣では有名な編曲家です。
 彼は、1990年頃アメリカのバークリー音楽大学を卒業後NHKに就職してテレビの音楽を担当していましたが、1993年に退職して台灣に渡り、張雨生を始め王傑、蘇芮、張惠妹等一流歌手の編曲を担当して今日に至り、この合唱の編曲にも携わっています。



這一年 這一夜
この一年 この一夜
                      作詞・作曲:張雨生
太陽燒紅了海洋
海洋包容了太陽
向晚天空缺掉一角
月亮探頭撒張網
眼觀鼻觀心口上
妳那羞澀不能忘
我的手臂不勝扭曲
靠上妳的肩膀

太陽は海洋を焼いて紅(くれなひ)にし
海洋は太陽を包み容(い)れたり
晩(くれ)に向かいて天空は一角を缺(か)け掉(お)とし
月亮(つき)は撒張(さつちょう)する網を探頭(たんとう)す
眼は観る鼻は観る 心口(しんこう)の上 (ほとり)
妳(なんじ)の那(な)んぞ羞澀(しゅうそう)たる 忘る能(あた)はず
我が手臂(しゅひ)は扭(ね)じ曲(ま)ぐるに勝(た)へず
妳の肩膀(けんぼう)の上に靠(よ)れり

太陽は海を赤く燃やしました
海は太陽を包み込みました
夕方になって空の一角が欠けて落ちました
そこへ顔を出した月が海に沈みかけて 張られている網はないかと探していました
俯いて胸のあたりを見ている
そんなあなたの恥かしそうな姿を 忘れることはできません
私の腕が自然に曲がってくるのを止められず
あなたの肩を抱き寄せました


山頂一片白茫茫
風起滾層層浪花
向晚天空明暗更替
霞彩忙著點新妝
眼望雲望西天涯
妳那出神不能忘
我的情緒傻傻
隨妳飛進美麗烏托邦

山頂一片白きこと茫茫(ぼうぼう)たり
風起こりて層層(そうそう)たる浪の花を滾(たぎ)らす
晩(くれ)に向かいて天空は明暗を更に替えたり
霞彩(かさい)は忙がしく新たな妝(よそお)いを點(つ)くる
眼は望む雲は望む 西のかた天涯を
妳(なんじ)の那(そ)れ神(しん)を出だすを 忘る能(あた)はず
我が情緒は傻傻(ささ)たり
妳に随いて美麗なる烏托邦(ユートピア)に飛び進む

山の頂きは見渡すかぎり真っ白でした
風は海辺に吹き寄せて幾重にも重なり合う波の花を巻き起こしていました
夕方になって空の明暗が変わりました
夕焼けの色彩は急いで新しい化粧を凝らしました
雲が西の天の涯に帰ろうとしているのを眺めている
そんなあなたがうっとりとしている姿を 忘れることはできません
私の心はぼんやりとして
あなたに付き従って美しい理想郷へと飛んで行きました


這一年 這一夜
回憶溫暖我疲憊
小黃燈書桌前
細數有心人情淚
看似清實迷離
情路又玄又是漩
為妳 我更舉杯
好景當前莫留連

這(こ)の一年 這(こ)の一夜
回憶は我が疲憊(ひはい)を溫かく暖める
小さき黃燈(こうとう)の書桌(しょたく)の前
心ある人の情淚(じょうるい)を細(こま)やかに数(かぞ)ふれば
看ること清(さや)かなる似(ごと)くして 実は迷離(めいり)たり
情(じょう)の路(みち)は又(また)玄(くら)くして又是れ漩(めぐ)れり
妳(なんじ)の為 我更に杯(はい)を挙げん
好景(こうけい)當(まさ)に前(すす)むべし 留連(りゅうれん)する莫(なか)れ

この一年 この一夜
思い出は私の疲れきった心身を温めてくれます
小さい黄色い燈火に照らされた机の前で
心ある人の愛情と涙の数々を数えています
それらははっきりと見えるようで 実は本当にぼんやりしています
愛情の道は奥深くまた渦巻く流れのようです
あなたのために 私は更に杯を挙げて乾杯しよう
この素晴らしい景色の中を進んで行こう ぐずぐずと留まることなく…


(間奏)


獵戶星在前方亮
雙熊盤踞北極光
春分時候無際穹蒼
銀河舞會星宿忙
眼遊神遊老與莊
妳那無語不能忘
我的胸口鼓鼓吹脹
歡樂幸福的遐想 這一年

獵戶(れふと)の星は前方に在りて亮(あき)らかなり
雙(ふた)つの熊は北極に盤踞(ばんきょ)して光(かが)やく
春分の時候 際(きわ)まりなき穹蒼(きゅうそう)に
銀河は舞會(ぶかい)し星宿(せいしゅく)は忙(ぼう)たり
眼は遊び神(しん)は遊ぶ 老與莊(ろうよそう)
妳(なんじ)那(そ)れ語る無くとも 忘る能わず
我が胸口(きょうこう)は鼓鼓(ここ)として吹脹(すいちょう)す
歡樂幸福を遐(はる)かに想ふ 這の一年

オリオン座の星々は前方で煌めいています
二頭のクマ(大熊座と小熊座)は天の北極に屯(たむろ)して光っています
春分の時節の果てしない夜空に
銀河が舞い踊り星座がその周りを忙しそうに取り巻いています
眼も心もいつか故郷の村へと遊びに行っている
そんなあなたの姿を何も話さなくても 忘れることはできません
私の胸奥は満ち足りて膨らみます
楽しくて幸せな思いの この一年


(間奏)


這一年 這一夜
回憶溫暖我疲憊
小黃燈書桌前
細數有心人情淚
看似清實迷離
情路又玄又是漩
為妳 我更舉杯
好景當前莫留連

這(こ)の一年 這(こ)の一夜
回憶は我が疲憊(ひはい)を溫かく暖める
小さき黃燈(こうとう)の書桌(しょたく)の前
心ある人の情淚を細(こま)やかに数ふれば
看ること清(さや)かの似(ごと)くして 実は迷離(めいり)たり
情の路(みち)は又(また)玄(くら)くして又是れ漩(めぐ)れり
妳(なんじ)の為 我更に杯を挙げん
好景(こうけい)當(まさ)に前(すす)むべし 留連(りゅうれん)する莫(なか)れ

この一年 この一夜
思い出は私の疲れきった心身を温めてくれます
小さい黄色い燈火に照らされた机の前で
心ある人の愛情と涙の数々を思っています
それらははっきりと見えるようで 実は本当にぼんやりしています
愛情の道は奥深くまた渦巻く流れのようです
あなたのために 私は更に杯を挙げて乾杯しよう
この素晴らしい景色の中を進んで行こう ここに留まることなく…





張雨生 - 這一年這一夜 (200人之張雨生經典) (櫻井弘二編曲) - NTU Chorus & KMU Singers



 張雨生の原唱はこちら↓