伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

小城多可愛(小さな町の多くの魅力)

 
「小城多可愛」(小さな町の多くの魅力)は、1979年に製作された台湾映画「小城故事」(小さな町の物語)の片尾曲(エンディングテーマソング)として、鄧麗君(1953年1月29日 - 1995年5月8日)の演唱で発表された楽曲です。
 作詞は莊奴 (1921年2月22日-2016年10月11日)、 作曲は湯尼(実名:翁清溪1936年-2012年8月)が担当し、この楽曲は1979年に鄧麗君が発表した映画と同名のアルバム「小城故事」のA面最後の6曲目に収録されています。なお、この映画と同名の主題曲「小城故事」は、同アルバムのB面1曲目に収録されています。


 その後、鄧麗君が発表したアルバムにセルフカバーした「小城多可愛」は、同じ曲でありながら、曲名を「春風滿小城」としたものや主題曲と同じ「小城故事」としたものもあり、それぞれ歌詞が少し異なるものの同一楽曲に3種類の題名があるという不可思議な状態になっています。
 更にこの楽曲の作詞・作曲は、この映画の主題曲である「小城故事」と同じく莊奴と湯尼のコンビが担当しており、歌詞については「小城故事」と異なるものを作っていますが、曲は「小城故事」と同じものを使用しているという益々ややこしい楽曲です。ただし、前奏を含む編曲は異なっており、テンポも速く作られているので曲調は映画のハッピーエンドを象徴するやや軽快なものになっています。


 この映画の内容は、前回の記事でご紹介したように小さな町に住む青年が姉を助けるために姉婿に暴行を働き服役しますが、刑期を終えて町に戻ってからの愛情物語です。
 「小城多可愛」の歌詞も主題曲の「小城故事」と同様にそのことを踏まえた内容になっています。


 曲名に見える「可愛」は日本語の「可愛い」よりも広い意味があり、ここでは「魅力がある」の意で使用されており、歌詞全体でその魅力について詠じています。
 なお、日本の若者は衣服や装身具などの「物」にも「可愛い」を使いますが、漢語ではあくまでも人や動物に対して使う詞語で「物」を「可愛」とは言いません。


 詞中の「春風映桃李」とは、直訳すると「春風がモモやスモモの花に照り映える」となり、詞的で分かりにくい表現ですが、ここでは「そよそよと吹き寄せる春風に揺られてモモとスモモの花が競い合うように春光の中で照り映えている」意に解釈しておきます。
 また、詞中の「雨露盡關懷」とは、雨露を擬人化して、恵みの雨が大地を潤おすことを「盡關懷」(ことごとく心を配る)と表現したものです。
「大地綿延須勤奮」も同様に大地を擬人化して、「廣い大地が生命を育むために精励している」と詠じています。
「去的去 來的來」とは、「去る人は去り 来る人は來る」の意で、多くの人々が訪れては去って行くことを表現しています。
 なお、「改」の字は、日本語では一般に悪いものを良いものに変えることを意味しますが、漢語では良きにつけ悪しきにつけ物事が変化することを意味します。良くなったのか悪くなったのかは文脈で判断します。


 前回の「小城故事」に引き続き、原唱の鄧麗君本人の演唱でご紹介します。



小城多可愛(別名 春風滿小城、小城故事)
小城に愛すべきこと多し
小さな町には多くの魅力がある

                      曲: 湯尼 詞: 莊奴 演唱: 鄧麗君
 
(白文)
小城多可愛 溫情似花開
悠悠春風映桃李 雨露盡關懷


根要往下生 花要向上開
大地綿延須勤奮 一代接一代


去的去 來的來 小城風貌永不改
外面的世界雖美麗 小城更可愛


(訓読文)
小城愛すべきこと多し 溫情は花の開(ひら)くに似たり
悠悠として春風は桃李に映じ 雨露は盡(ことごと)く關懷(かんかい)す


根は下に往(ゆ)きて生ずるを要(もと)め 花は上に向(むか)ひて開くを要(もと)む
大地は綿延(めんえん)として勤奮(きんふん)を須(もち)ひ 一代は一代に接(つ)ぐ


去るは去り 來たるは來たるも 小城の風貌は永(とこし)へに改(あらた)まらず
外面の世界美麗なりと雖(いへど)も 小城愛すべきこと更(さら)なり


(現代口語訳)
小さな町は多くの魅力にあふれている 人々の温かい心はまるで花が咲くようだ
悠悠と吹き寄せる春風は桃や李の花を春光に映じさせている
恵みの雨や露は全ての生命に心を配っている


根は地面の下に延びようとし 花は地上に向かって開こうとしている
大地は広々として生命を育むために精励し その生命を一世代づつ次の世代に繋いでいる


次々と去る人は去り來る人は来るが 小さな町の素敵な風情は永遠に変わることはない
外の世界にどれほど美しい所が有ろうとも この小さな町には更にそれ以上の魅力がある




Teresa Teng 鄧麗君 - 小城多可愛 (1979)



 台灣映画「小城故事」のラストシーン▼

小城多可愛 鄧麗君 小城故事 插曲 台灣電影1979年