伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

ヘクトールとアンドロマケーの別れ(キリコ画)


 この絵は、ジョルジョ・デ・キリコ(DE CHIRICO, Giorgio)の代表作《ヘクトールとアンドロマケーの別れ(Parting of Hector and Andromaque)》です。


 キリコは、この題材がよほど好きであったようで、同じ画題のよく似た絵を何点も描いています。
 上掲の絵は、岡山県倉敷市にある大原美術館収蔵の1918年 油彩・カンヴァス版(縱119.8㎝×横74.1㎝)です。


 絵の中の二人は、戦時体制の為、どちらも甲冑を纏っていますが、足腰の形を見てお分かりのとおり、左が男のヘクトール、右が女のアンドロマケーです。


 絵の題材は、古代トロイア戦争において、トロイアの王子でもあり希代の英雄でもあったヘクトールが、ギリシャの剣豪アキレウスとの一騎打ちに向かうため、妃のアンドロマケーに別れを告げている場面を描いています。


 ヘクトールは、この一騎打ちに敗れて戦死し、最強の英雄を失ったトロイアは、ギリシャ方の「トロイの木馬」の詭計などによる攻撃を受けて壊滅します。
 その後、残されたアンドロマケーは、敵に捕らわれて悲しくも数奇な運命に弄ばれることになってしまいます。


 そのような故事を踏まえて描かれたこの絵には、ヘクトールの悲壮な覚悟とアンドロマケーの心を覆う不安とが、キリコの手により余すところなく表現されているのであります。


 風蕭蕭兮愛琴海寒 壮士一去兮不復還
[風は蕭蕭(せうせう)として愛琴(エーゲ)海寒し 壮士一(ひと)たび去りて復(ま)た還(かへ)らず]


 本日、7月10日、ジョルジョ・デ・キリコ、128回目の誕生日です。