伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

旅姿三人男

  【次郎長三国志より】


 《旅姿三人男》は、今から約80年前の昭和13年(1938年)に、日本の歌手ディック・ミネの演唱により発表された楽曲です。


 作詞は宮本旅人、 作曲は鈴木哲夫で、歌題に見える「三人男」とは、幕末から明治にかけて、駿河國有渡郡清水(現在の静岡県静岡市清水区)を本拠地とする侠客で「海道一の大親分」と謳われた「清水の次郎長(本名:山本長五郎)」の子分の中の、大政・小政・石松の三人のことです。
 歌詞の内容は、この三人のそれぞれの姿や心情の特徴を詠じたものです。


 ジャズやブルースなど洋楽系を得意としたディック・ミネの演唱により、所謂演歌調ではない新しい歌唱法が好評を博し大ヒットとなりました。
 今回は、この曲が生涯を通ずる代表曲となったディック・ミネ本人の演唱でご紹介します。


 なお、詞中に見える「国を売る」という詞語は、「国(故郷)を出る」と「国を裏切る」との二つの語義が有りますが、故郷を出てきているのは大政に限ったことではないので、ここでは「某藩の家臣であった大政が、次郎長暗殺の藩命に背いて次郎長の子分になった」ことを示しています。ただし、これは物語の中での設定で、実際には大政は武士の子弟ではなく廻船問屋の倅であり藩命などは受けていません。



 旅姿三人男
 旅姿三侠客
             作詞:宮本旅人
             作曲:鈴木哲夫
             歌唱:ディック・ミネ
(一)
清水港の 名物は
お茶の香りと 男伊達
見たか聞いたか あの啖呵
粋な小政の 粋な小政の旅姿

清水港的 特産是
茶的芳香和 丈夫氣概
看過或聽過吧 那豪氣宏亮的颯爽聲音
那瀟灑小政 瀟灑小政旅行的英姿


(二)
富士の高嶺の 白雪が
解けて流れる 真清水で
男磨いた 勇み肌
なんで大政 なんで大政国を売る

富士山高嶺的 白雪
融化開流的 眞清水
把磨練男人的 豪俠氣概
爲何大政 爲何大政拋棄故鄉


(三)
腕と度胸じゃ 負けないが
人情からめば ついほろり
見えぬ片目に 出る涙
森の石松 森の石松よい男

剛腕和膽量 絕不輸人
但受困於人情義理 不知不覺撲簌心軟
不能看見的單眼 也會因此流下淚水
森的石松 森的石松柔情的眞好漢




旅姿三人男

再回首 (振り返れば)


 《再回首》は、台灣の女歌手李翊君と憂鬱王子と称される男歌手の姜育恆が、1989年7月 に同時に発表した楽曲です。
 作詞は《感恩的心》等のヒット曲で知られる台灣の陳樂融(Chen Le-Rong,1962年6月22日-)、作曲は《但願人長久》などで知られる香港の盧冠廷(Lo Kwun Ting,1950年10月12日-)です。


 歌詞の内容は、二度と会えなくなった人を追憶しながら、これから一人で生きて行く決意を詠じたものです。
 「会えない人」とは、恋人とも親や恩師その他の友人・知人とも取れる深みのある歌詞です。


 なお、歌題の「再回首」の中の「回首」とは、「振り返る」という語義で、日本語と同じく空間的に「後ろを振り返る」意味と時間的に「過去を振り返る」という二つの意味ががあります。
 「回首」に付けられている「再」の字は、「反覆・継続」を表わす接頭語で「しばしば」或いは「何度も」という語義で、この詞に限っては「再び・・」という意味ではありません。
 また、詞中に「平平淡淡從從容容」など畳字が使用されている句が見えますが、これは「平淡從容」を強調する句で、「平淡從容 平淡從容」と繰り返すところを、互文的に修辞してリズミカルにしたものです。


 今回は、李翊君と姜育恆二人の演唱をご紹介します。
 なお、二人の歌詞は、それぞれ少しづつ異なっていますので、原文歌詞では共通部分緑色李翊君だけの部分を赤色姜育恆だけの部分を靑色で表示しています。
 和訳については、大差ありませんので、共通黒色にしています。


  再回首
  振り返れば
                      作詞:陳樂融    作曲:盧冠廷
                      演唱:緑字:共通 
                         赤字:李翊君 
                         青字:姜育恒
 再回首 雲遮斷歸途 再回首 荊棘密佈荊棘密布
 
今夜不會再有難捨的舊夢
 曾經與你共有的夢 今後要向誰訴說

 振り返れば 雲が帰り道を遮る   また振り返れば 密生したイバラが行く手を阻んでいる
 今夜 捨て難い昔の夢をまた見ることはないだろう
 あなたと過ごして共に見た未来の夢を、この先誰に訴えればよいのだろうか?


 再回首 背影已遠走 再回首 淚眼 朦朧 *1
 
留下你的祝福 寒夜溫暖我
 不管明天要(我)面對 多少傷痛和迷惑
 曾經在幽幽暗暗反反
覆覆復復中追問 *3
 
才知道平平淡淡從從容容是最真才是真
 
再回首 恍然如夢 再回首 我心依舊
 只有那無盡的長路 伴著我
 *2
 振り返れば 後ろ姿はすでに遠ざかってしまった 振り返れば 涙の眼はぼんやりと霞む
 あなたが残してくれた祝福が 寒さの夜に私を暖めてくれる
 明日(私が)どれほど多くの苦痛と戸惑いに直面しようとも構わない
 かつてほの暗い闇 薄暗い闇の中で 何度も何度も 繰り返し問い詰めたことがあったけれど
 今初めて知った 平静で淡白で 落ち着いて余裕のある態度が最も大事であることを
 振り返れば それはまるで夢のようで 振り返れば 私の心はあの時のまま
 ただ、この果てしない長い道を 私は一人で歩いて行く


*1*2 繰り返し)


*3*2 繰り返し)


姜育恒*4へ)


李翊君
 再回首 恍然如夢  我心依舊 
 振り返れば それはまるで夢のようで 私の心はあの時のまま


*4
 再回首 恍然如夢 再回首 我心依舊
 只有那無盡的長路 伴著我

 振り返れば それはあたかも夢のようで 振り返れば 私の心はあの時のまま
 ただ、この果てしない長い道を 私は一人で歩いて行く


 李翊君版 ↓


再回首 ------ 李翊君



 姜育恒版 ↓

《再回首》 姜育恒 ♪♫*•♪