伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

奉祝紀元節



   皇祚
 皇祚連綿兮久長
 萬世不変兮悠長
 小石凝結成巌兮
 更巌生緑苔之祥


皇祚天壌無窮 皇統萬世一系 
祝願世界平和 人類幸福健康


君民偕楽 千秋萬歳

  皇紀貳仟陸佰漆拾陸年紀元節


第漆代孝靈天皇第參皇子西道將軍大吉備津彦命裔 臣伊賀山人哲生恐畏白

伊賀の月餅(観月懐古番外編完)

 その夜早速、私は新郎新婦にもらった酒の封を開けました。


 遥かに見える伊賀の山の上には仲秋の名月が輝いており、窓から射し込むその清かな光は、あたかも地上に降りた霜のように寝室の床を白く冷たく照らしておりました。


 山と月と一杯の酒、詩人の心を揺さぶるお膳立ては整いました。
 しかしながら、酒は進むものの、作詩のほうはなかなか思うようにゆきません。


 頭を上げて山や月を眺めながら、ふと室内に頭を巡らしてみると枕元には山の神が持ち帰った月のような丸い形をした紅白の餅があるではありませんか。


 これで詩想は固まりました。推敲するうちに、自然と手が月餅の方に伸び、やがて満月型の餅は半月となり、三日月となり、遂に皆既月蝕になってしまいました。


 漸く出来上がった漢詩は次のとおりです。


(白文)
静夜食月餅   伊賀山人


牀前看月餅
疑是老婆餅
擧頭望山月
低頭食月餅


(訓読体)
静夜(せいや)月餅(げっぺい)を食(しょく)す


牀前(しょうぜん) 月餅を看(み)る
疑(うたご)うらくは是(こ)れ 老婆の餅かと
頭(こうべ)を挙(あ)げて 山月を望み
頭(こうべ)を低(た)れて 月餅を食す


(口語訳)
静かな夜に月餅を食べる


寝台のそばで月餅を見つけたが、
どうやらこれは、山の神がもらってきた引き出物の餅のようだ。
頭を挙げて遥か遠くの山の端の月を見上げていると、
自然に頭が下がってきて、こっそり月餅を食べてしまった。


 漸く、一詩を賦し、私は太平の眠りにつきました。


 翌朝、枕元でバタバタする山の神の騒音により、目が覚めました。


「おっかしいな~ お餅が見当たらへん~」
 どうやら、皆既月食に気付いたようです。


『餅って、引き出物のことか?』


「そうや~ 大事なもんやから、踏み潰されんようにここに置いといたんやけど~」
 そして、程なくゴミ箱の中の空き箱を見つけてしまいます。


「あ~~~! 食~べたな~!!」
 正に、里見八犬伝の「玉梓が怨霊」の形相です。


 私は、山の神の祟りを鎮めるため、寝ぼけ頭を振り絞って理路整然と弁舌をふるいます。
『餅の一つや二つ、どうでもいいではないか? 大切なのは餅そのものではない。餅に込められた「気持ち」の方なのだ。そもそも、本当に大切なものは目には見えないものなのだ。』


「何ゴチャゴチャ言うてんねん~ お餅がなかったら、気持ちも込められへん! お餅は大事なもんと違うんか~!! 本当に大事なもんでないんやったら何で今ここで目に見えへんのや~!!!」


 あー言えばこう言う、こう言えばあー言う、実に、口の減らぬ山の神です。


 その日たまたま、新郎新婦改め愚息夫妻から結婚式列席のお礼に来るとの知らせがあり、ついでに、余っていた紅白餅を一箱持って来てくれることになりました。


 これにて、一~件~落~着~ めでたし、めでたし~(^_^)/

風変わりな結婚式(観月懐古番外編)


 2~3年前の仲秋の頃、個人事業主の私にしては珍しく、実に久しぶりに結婚式に招待されました。


 私は山の神と共に、大阪のとあるレストランに赴きました。新郎新婦とその友人による手作り感満載の、所謂ジミ婚です。
 新婦は、エステクラブに勤めるバツイチ再婚とのことでした。新郎は、どこにでもある中小企業の従業員で、こちらは初婚です。
 なれ初めは、それぞれが別々に組んでいるアマチュアロックバンドのコンサートなどで知り合ったとのことでした。


 レストランに着いて驚きました。100人近くの参列者の中で、礼服にネクタイ姿の者など見渡す限り私一人だけでした。
 披露宴会場となる大ホールを埋め尽くす若者とその子供たちの殆どが普段着です。中には、金属の鎖やガラスの玉などを張り付けた衣装に身を包み、顔にはドーランを塗ったデーモン小暮閣下のような悪魔装束の者までいます。新婦の母親と思しき中年のご婦人が一人だけ、和服を上品に着こなしているのが場に花を添えて印象的でした。


 司会は、某ローカルテレビ局の女性アナウンサーです。
 その優しい声に促されて、別室の会議室で人前結婚式が執り行われました。凡そ厳粛とかしめやかとは無縁の式です。儀式の最中でも、悪魔どもは歓声を上げ、子供たちははしゃぎ回っています。殆ど、ハンク・ウィリアムズの「ジャンバラヤ」の世界です。


 何はともあれ、滞りなく式は終了し、次いで、大ホールで披露宴が始まりました。
 乾杯の音頭が終わるのも待ちかねて友人一同による余興が始まりました。いきなりヘビメタロックから始まります。壁は砕け天井は吹き抜けるかという程の大音量です。私もロックであれば、チャック・ベリーやプレスリー、ビートルズ、若いところでビリー・ジョエルくらいまでなら分かります。しかしながら、このヘビメタは分かりません。とにかく喧しすぎて歌詞が聞こえません。このような歌や踊りが一時間ほども続きました。私には分かりませんが、何か若者の心に響くものがあるのでしょう。参列者は子供も含めて大喜びでした。


 宴もたけなわの頃、司会の穏やかな声がホールに響き渡りました。
 披露宴定番の新婦から両親への手紙の朗読です。しかし、これも型破りでした。
 新婦の手紙は、実の両親あてではなく、新郎の両親、つまり義父母あてだったのです。
 
 手紙は、まず身の上話から始まりました。
 自分は幼いころ、両親に捨てられて養護施設で育ったこと、中学を卒業してから一人で食べてゆくため職を転々としたこと、その仕事は必ずしも世間体の良いものばかりではなかったこと、家族が欲しくて二十歳のころに結婚したこと、しかしそれが長くは続かなかったこと、今日、親代わりに参列してくれている和服のご婦人は以前お世話になったスナックの経営者であること、それから10年、結婚は既に諦めていたこと、新郎からプロポーズされて天にも上るほど嬉しかったこと、夢なら醒めないでと願ったことなどが切々と語られました。


 先ほどまでの乱痴気騒ぎが夢であったかのように会場は静まり返ります。それどころか、会場のそこ彼処ですすり泣きの声さえ聞こえてきます。
 隣に座っている山の神すら、ハンカチでそっと目頭を覆っています。(鬼の目にも涙)


 それから、両親(義父母)への感謝の言葉ならぬお詫びの言葉が続きます。
 結婚を決めた時にすぐ義父母に報告すべきであったこと、けれども自分の身の上を考えると新郎と釣り合わないと思ったこと、誰かに話してしまうとこの幸せが逃げてしまいそうで怖かったこと、入籍を急いで結婚式が後になったこと、しかもこの式次第も自分たちで勝手に決めてしまったこと、だけど今では全て報告しなかったことを後悔していること、入籍後義父母の方から自分のアパートを訪ねてこられて死ぬほど緊張したこと、もし義父母が怒っているのでなければ、自分を家族の一員にそしてできれば娘にしてもらいたいことなどが、涙とともにお詫びの言葉となって語られました。


 一体、誰がこの新婦を責めることができましょうか。


 天涯孤独の少女が、中学卒業以来、誰の力も借りずに、今まで必死で生き抜いてきたのであります。人の役にたち人に喜んでもらえる仕事であれば、職業に貴賤などありません。10代の小娘が、自立して生きてきたこと自体が称賛に値することでしょう。


 人間、二十歳も過ぎれば立派な大人です。大人には、自分の人生は自分で決める権利があります。
 結婚の報告が遅れたことを非難するなど、些末な感情論に過ぎないでしょう。
 この新婦の身上と心情とを思えば、義父母にそれを責める権利などないでしょう。
 しかしながら、結婚には両親の許しが必要とする古い観念が、今でも世間の一部で常識とされていることも事実です。


 義父母の感情を慮る司会のやや上擦った声が、新郎の父親の名を呼び、両親代表としての挨拶を求めます。


 寂として声なき会場を新郎の父親が泰然としてマイクに向かいます。


 この親父の第一声がまた変わっています。
 「先ほど来の、鐘や太鼓の大音声で、脳みそがすっかりウニ状態になってしまった。何を話すべきか思いつかない。」
 一同の胸中に不安がよぎります。


 親父は、構わず続けます。
 「新郎の友人諸君ならご存知だろうが、実はこいつはバカなのだ。」
 新郎新婦はじめ会場の空気が凍りつきます。


 「こいつが、小学1年生の時、家族で北海道に引越ししたことがあった。その冬、ワシはこいつに初めてスキーを教えた。シーズンの終わりごろ、こいつは何を考えたか、某新聞社主催の市民スキー大会に出ると言い出し、大回転小学1・2年生の部にエントリーした。2年生でなければ勝ち目が無いので、1年生で参加したのはこいつ一人だけだった。他の子供がステップターンで降りてくるところを、こいつだけはプルークボーゲンでおりてきた。それでも初めての競技用急斜面で何度転んだか数えきれない。その度に、こいつは転んだところまで駆け上ってはやり直しして人の何倍もの時間をかけて完走して、3位に入り銅メダルを貰った。1・2年生の大回転参加者は、10数人いたが、実は完走したのはこの3人だけだったのだ。それ以外の者は、全員途中の急斜面で転んで、その時点で棄権したのだ。大回転では、一度転ぶと大きな時間ロスになって上位入賞は難しい。転べば棄権するのが殆ど常識みたいになっている。こいつは、本当にあきらめの悪いバカなのだ。」
 会場の空気が少し和みます。


 「中学生になっても、このバカは続いた。ある日、学校の帰り道で、同級生の女子が体のデカい高校生にいじめられているのに出くわした。他の中学生は皆、関わり合いになるまいとして、見て見ぬふりをして通り過ぎてゆくのに、このバカはいきなりその高校生に殴り掛かり乱闘騒ぎに及んだ。幸いに不埒者を撃退することはできたが、おかげで親指を脱臼して一箇月も病院に通う羽目になってしまった。こいつは、身の程を考えず、人が困っていると義憤に燃えて、見て見ぬ振りのできないバカなのだ。
 おっ・・そういえば、〇〇(新郎の名)、あの年のクリスマスに貰った真っ赤なマフラー、まだ持っているのか?」
 会場に笑い声が聞こえてきます。


 「高校生になって、こいつはギターを買うために、近所のファミレスでアルバイトを始めた。ある夜更けにこの店に強盗が押し入った。店の金品を取られたところで、こいつには何の損害もない。ところが、このバカ、店を守ろうとして、強盗相手に立ち回りを演じてしまった。強盗は持っていたガソリンを、こいつにぶっかけて逃げて行った。火でもつけられていたら、今頃ここにはいないだろう。確かに、この店の店長は、バイト禁止の学校には内緒でこいつを雇って、いろいろ面倒を見てくれた。それなりの恩義は有るのだろう。こいつは、義のためには身の危険を顧みないバカなのだ。」
 バカバカと言いながら、この親父、実は息子の自慢話をしているのに漸く気付いた参列者からは、やんやの喝采が上がります。


 「こんなバカだから、一生結婚などできないだろうと思っていたが、縁あってこの度、バカを承知で付いてゆくという物好きな女子が現れた。この新婦も少しバカなのではないかと、密かにワシは ”期待” している。」
 「こんなバカな新郎新婦だが、諸君、どうかこれからも末永く付き合ってやってもらいたい。そして、このバカな夫婦が何か困難なことに出くわしたときには、ほんの少しでいいから、手を差し伸べてやってもらいたい。
 Like a bridge over troubled water!
 バカな親父のバカ話、このへんでお開きを頂戴します!
 今日は、遠路はるばる来てくれて本当に有難う!!


 会場、割れんばかりの拍手と大歓声です。
 一時はどうなることかと心配した司会もほっと胸をなでおろし、新郎新婦は抱き合って喜んでいます。


 宴も目出度くお開きとなり、私と山の神は、新郎新婦からそれぞれ引き出物を受け取って、仲秋の名月が照らす伊賀の山道を帰って来ました。


 自宅に辿り着いて、一服した後、引き出物の包みを開いてみました。


 山の神の包みには、仲秋らしく月餅の形をした紅白の餅が入っておりました。


 私の包みには、一瓶の無銘の酒が入っており、その白いラベルには、「お父さんへ 感謝をこめて」と書かれて、その横に寄り添うように新郎新婦の名前が記されておりました。


      次回へ続く