伊賀のくノ一
伊賀のくノ一
(筆者注:文中、個人名は匿名にしていますので、適宜ご想像ください。)
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かつて、杜の都仙台のアパートで独り暮らしをしていたころのことです。
久しぶりに、伊賀の山奥から山の神が訪ねてきました。
アパートに入るや否や、床にホコリが溜まっているとか風呂にカビがわいているとか、文句たらたらで大掃除が始まりました。
ほどなく、この山の神、ホウキを片手に台所で暴れ出しました。伊賀のくノ一の真似をしてチャンバラの稽古でもしているのかと思って覗いてみると、何の罪もないゴキブリを追いかけまわしています。
私は、この哀れなゴキブリのために一肌脱ぐことにしました。
「これこれ、無益な殺生はおやめなさい。生きとし生ける者、ゴキブリにも生きる権利がある。」
ところが、このくノ一、命の大切さなど眼中にありません。
『ゴキブリに生きる権利なんかない~!』
私は、ゴキブリの弁護を続けました。
「いやいや、ゴキブリを差別してはいけないよ。全てゴキブリは昆虫として尊重される。全てゴキブリは法の下(もと)に平等であり、ゴキブリの幸福を追求する権利は何人(なんぴと)もこれを侵してはならないのだ。」
しかしながら、法の理念を全く理解しないこのくノ一は、ヒステリックに喚き散らしました。
『何ゴチャゴチャ言うてんねん!
ゴキブリなんか~尊重されへん!
ゴキブリなんか~人類の敵や~!
ゴキブリなんか~!
ゴキブリなんか~!!
金正〇と同んなじや~!!!』
と、このくノ一、とんでもないことを言いだしました。
私は、名誉棄損などで訴えられないように、火消し役に回りました。
「おいおい、それは失礼と言うものだよ。金正〇と同じなんて、ゴキブリが聞いたら気を悪くするぞ。」
そうこうしている内に、気を悪くしたゴキブリは台所の隅に逃げ込み姿を消しました。
これを取り逃がしたくノ一は、己の技の未熟を恥じてか、再修業のため伊賀の山に帰って行きました。
杜の都に、平和と静寂が戻ってきました。
爾来、ゴキブリは姿を現しません。
若い娘の姿に身を変えて、恩返しに来るのではないかと期待していたのですが・・・
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