伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

確率論的包括事象の予言

 前回の記事では、腕利きの占い師になるための秘訣として、予言方法を提示しましたが、今回は、更にその発展形について、説明します。


 そもそも、世の中で生起する事象は、「必ず起こる」あるいは「絶対起こらない」という100%の事象は稀で、殆どの事象が有る確率を持って生起します。


 例えば、大相撲の横綱が平幕に必ず勝つということはありません。
 勝つ確率が、高いと言うだけのことです。


 この確率も、厳密にいうと、固定的なものではなく、彼我の心身の状態などにより変動します。
 前者を、確率固定モデル、後者を確率変動モデルと言いますが、確立変動モデルの解析には、多数の変数を含む確率密度関数を定義する必要があり、甚だ複雑なものになりますので、以下、主として確率固定モデルでご説明します。


 ある程度経験を積んだ占い師が、更なる集客を目論む場合に、「確率論的包括事象の予言」というものを行うことがあります。
 これは、簡単に言うと、「起こりやすいことを予言する」ということです。


 例えば、次のような予言が、その典型です。


「貴方は、今、付き合っている人とは結婚しません。また、引越しの相が出ていて3回位凄く遠くに引越します」


 これは、二つの予言からなっていますので、一つづつ説明します。


 まず、「今、付き合っている人とは結婚しません」という予言は、客が若くて、付き合った経験が少ない場合に、高い確率で的中します。



 【結婚前に付き合っていた人数】


 上図は、結婚に付き合っていた人数を表すグラフです。


 0名とは、初めて付き合った相手と結婚したということです。
 つまり、統計的には、最初に付き合っていた相手と結婚する確率は26.5%に過ぎず、別れる確率が73.5%と圧倒的に高くなっています。
 現在付き合っている人が二人目であっても、別れる確率は59.7%、三人目であって、漸く半々になります。


 したがって、客が付き合っている相手が、一人目であれば、「別れる」と予言しておけば、4人中3人までは、当たることになります。


 また、確立変動を考慮すると、占い師の「別れる」という予言が、客の心の片隅に残り、些細なきっかけで別れることも有りえますので、別れる確率はより高くなります。



 次に、「引越しの相が出ていて3回位凄く遠くに引越します」という予言ですが、ここでは、「3回」と「凄く遠くに」とが、典型的包括事象です。
 「3回位」という曖昧な表現であれば、少なくとも2回から4回までは的中といえます。
 また、これは、引越しの全回数を示すのではなく、あくまでも遠くへの引越しが3回位であり、総引越し回数は何回でも構わぬことになります。(1回はありませんが)


 「凄く遠くに」というのは、絶対的な距離ではなく、本人の主観によるものですので、隣町への引越しでも凄く遠いと感じる人もいるでしょう。


 【引越し回数の分布】


 上図のとおり、2回以上引越しする人は、全体の78.1%です。
 引っ越しの理由は、家の購入と転勤、生活環境の変更が殆どですので、どのような引越しでも凄く遠く感ずることが多いでしょう。


 つまり、「3回位凄く遠くに引越します」という予言は、5人中4人くらいは当たるのです。


 以上の、「別れる」と「引っ越す」との二つの確立を総合評価すると、その両方とも外れる確率は、僅かに5%に過ぎません。
 どちらかが当たる確率は35%、両方とも当たる確率は60%です。
 
 客の心理としては、どちらか一つでも当たれば、よく当たると考えがちなものです。


 したがって、上記の例の占いであれば、ほぼ95%の人が「凄い! 当たった~」と感激することになるでしょう。


 占い師が、確率論を理解しているかどうかは分かりませんが、多分、経験則として知っているのでしょう。


 占いでは、具体的な事象は予言できません。
 例えば、「何年何月何日に今の彼と別れて、その何日後に何の誰平という名の新しい彼と出会う」とか、「何年何月何日にどこそこへ引っ越す」とか、それほど明確に予言したなら決して当たりません。


 何故なら、占いは、あくまでも誰にでも当て嵌まる「包括事象」と「確定事象」とを曖昧に述べて、客の境遇との類似点を見出すだけのもので、本当に未来を予測できるものではないからです。


 占いとは、血液型による性格診断同様、元々ナンセンスなものなのです。


 世間話や笑い話のネタにはよいでしょうが、自分の人生に影響を及ぼすほど信じ込んではいけません。


 自分の人生においては自分が主人公です。
 怪しげな占い師の戯言に惑わされて人生を誤らぬよう、ご用心ください。