伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

子育て母さんのためのXY理論


 

     図A  「X字型」 


     図B 「Y字型」

(東京成徳大学田村教授の論文から引用)

 親の願いは、子供が成長して社会的にも経済的にも自立することにあります。
 上記の図は、親と子供の相対的力関係を時系列で表したものです。縦軸は力を、横軸は子供の年齢を表します。図AのようにX字型で推移するのが通常の形で、図BのようにY字型で推移するのは問題のある形です。


 生まれたての子供は、全くの無力です。自分ひとりで生きてゆくことはできません。親は、この子を保護して、生き抜く知恵を与えるために100%の力を注がねばなりません。


 やがて、子供は成長するに伴い順調に力を付けてゆきます。手取り足取り子供の面倒を見てきた親は、ようやく子供に手がかからなくなり、徐々に力を抜いてゆくことになります。図Aのように、子供の力は右肩上がりになり、親の力は右肩下がりになり双方の力はX字型を描くことになります。


 そして、子供が思春期、即ち生物学的に一人前になろうとする頃が丁度X字の交わる分岐点となります。子供は無意識のうちに親を越えようともがき始め、母さんの手助けや意見を拒否するようになります。そして、その本能から「うざいんだよ!」とか「クソババー!」とかの罵詈雑言が飛び出すようになり、「あの可愛かったこの子が、一体どうしてしまったのかしら? 私の育て方が悪かったのかしら?」と、大いに母さんを悩ませ悲しませることになります。これが反抗期です。


 しかし、ご心配は無用です。子供の憎まれ口は、決して母さんを嫌いになったわけではなく、親に追い付き追い越そうとする健全な成長の証なのです。この時期に、母さんのすることは「過保護過干渉とを避けて注意深く見守ることだけです。端的に言うと、何もしないことです。そうすれば、やがて子供は、自分のことは自分で決められる自立した大人へと成長して、図Aのように100%の力を発揮するようになるでしょう。


 ここで、「過保護」とは子供が自分でやるべきことを親が子供の家政婦となって何でもしてしまうことです。「過干渉」とは子供が自ら判断すべきことを親が先に答えを出してああしろこうしろと微に入り細に亘り指図することです。


 せっかく、子供が反抗期を迎えて、「クソババー」と言い出した時期に、母さんが幼児期の力関係を維持しようとして、過保護・過干渉の圧力をかけると、力関係は図BのようにY字型となり、いつまでも親子の力が拮抗して、子供は自分のことが自分でできず、自ら考えて結論を出す能力が身につかず、行動力や社会性の欠如した大人になってしまいます。


 さらに、まずいのは過保護・過干渉の母さんが、子供の面倒を見ること自体に生きがいや存在価値を持ってしまい、「やはりこの子には私が必要なのだ。」と考えていると、子供は子供で、そのような母さんの考えを敏感に察知して、わざわざ母さんの困るような万引きや家庭内暴力などの非行を始めることです。これを心理学では「共依存」といい、この関係に陥ると、子離れ・親離れは容易なことではありません。この場合には、別居などの荒療治が必要になることもあります。


 今から子育てに取り組む母さんは、「クソババー」と言われたら、子供の成長を喜び、過保護・過干渉をやめてください。
 もう既に、反抗期を過ぎても子供が親離れせず、失敗したと思っている母さんも大丈夫です。いつでも修正は可能です。修正方法は、特に難しいものではありません。


 週に1回、10分間で結構です。子供の話をただ聞くだけです。ただし、この際、母さんの意見は一切言ってはいけません。子供の幸せを心から願う母さんとしては、言いたいこともあるでしょうが、何も言わず、子供に寄り添い子供の気持ちを汲み取り、子供の価値観を認めてやることこそが肝要なのです。