30年後の恩返し:タイ王国のタンブン(功徳を積むこと)
微笑みの国と呼ばれるタイ王国は仏教の国でもあります。
国王を始めとして、実に国民の95%が仏教徒で、そのほとんどは上座部仏教徒です。
上座部仏教徒の男子は一生に1回は出家するものとされていることから、タイの成人男子の殆どは僧侶の経験があります。
そのため、タイの国民の間では仏教思想の「輪廻転生」(りんねてんせい、りんねてんしょう)の考え方が浸透しています。
輪廻転生とは、死後、肉体は滅んでも魂は不滅で、何度も何度も永遠に生まれ変わるとする考え方ですが、現世の自分が来世でも同じ人として生まれ変わるのではなく、現世の行いの良し悪しにより、人間界を含む六道(天、人間、阿修羅、畜生、餓鬼、地獄)のいづれかの領域に転生するという考え方です。
タイではこの六道輪廻(りくどうりんね、ろくどうりんね)を更に細分化しており、同じ人間でありながら貧富の差や健康状態の良し悪しなど現世での境遇に差が出るのは、前世に積んだ功徳や善行或いは逆に悪行の酬いによるものだと信じられています。
このため、タイの国民の仏教観念として「ทำบุญ(タンブン)」というものが非常に重要視されて、子供のころから教育されています。
「ทำ(タン)」とは「行う、積む」の意で、「บุญ(ブン)」とは「善行や功徳」の意です。
「タンブン」とは、「善行や功徳を積む」ことを意味しており、狭義には寺院や僧侶への布施のことですが、広義には人や動物を助けたりする行為も含まれる概念です。
このタンブンは来世での輪廻の良し悪しを決めるだけではなく、善行を積むことにより現世でも自分に良い結果がもたらされるとされています。
これは、日本の諺の「情けは人の為ならず」に相通ずるものです。
更にタンブンは自分自身だけではなく、親兄弟や祖先にまで伝搬・転送されて好い結果を生じ、しかも転送により分け与えられたタンブンは当初より減少するのではなくなお一層増幅すると考えられています。
タンブンは仏教徒として自己を高め「終生正しい行いを繰り返し、善行や功徳を積むことによりブッダの教えを理解する」ための手段としてタイ王国の全土に広まっています。
タイ国民は、子供のころからこのタンブンを教わります。
そして、善行や功徳を積むことにより、より良い輪廻を迎えられるだけでなく、その行為が自身に返ってきて現世で困ったときにも周りに救いの手を差し延べてくれる人が現れると教えられています。
つまり、来世も現世も因果応報、全ての結果は自分自身が清く正しい行動をしてきたかどうかで決まると教えられているのです。
タンブンの思想は、貧困層にまで浸透しており、2011年3月の東日本大震災に際しては、タイ最大のスラム街と言われるバンコクのクロントーイ・スラムで世帯収入が1日100バーツ(約370円)にも満たないような貧困層の人々からの募金が、初動でおよそ30万バーツ(約111万円)、その後の活動も合わせれば合計50万バーツ(約182万円)も寄せられています。
このスラムの人々は、ネパールなど他の国の地震災害などの際にも募金を行っていますが、その額は平均的には約10万バーツで、日本への支援額は破格に高額なものになっています。
その理由は、わずかでも自分ができる範囲で善い行いをして社会貢献することがタンブンであることに加えて、日本に限っては国際貢献の為の支援団体がこのスラムの住民に医療支援や経済支援をしていることから日本が困っている時にこそ恩返しをしたいという気持ちが有るからです。
日本の援助もタンブンなら、貧困層の恩返しもタンブンであり、その二つのタンブンは相乗効果により更に一層増大すると考えられているのです。
今回は、功徳や善行を積む「タンブン」と、その恩返しの為の「タンブン」とを主題としたタイの携帯電話会社TrueMoveが作成したCMをご紹介します。
なお、動画の中の治療費792,000バーツは、日本円で約300万円ですが、タイ人の平均年収の3倍に相当します。
蛇足ながら、タンブンを理想とするタイ王国ではありますが、決して治安が良いとは言えません。
軍事クーデターはしばしば起こりますし、泥棒や殺人などの犯罪も少なくありません。
タイ国民は全般的にはタンブンを弁えた民度の高い国民ですが、一部に悪事を企む者もいることを念頭に置いて、旅行に行かれる折にはご用心ください。
追記:
この動画は、アメリカでの実話をもとに作られています。
その実話の概要は、次のとおりです。
この話は完全なフィクションではなく、ある実話が元になっています。それは、米国のある人物にかかわるものです。
昔、ある貧しい少年が、家々を周って物を売りながら、学校の費用を自分で支払っていました。
彼はある時、お金がなく、空腹で苦しんでいました。
そして少年は1軒の家を訪れ、食べ物を恵んでもらえるように頼もうとしました。そこへ出てきたのが若い女性だったので恥ずかしくなり、食事のかわりにコップ1杯の水を頼みました。
彼女は、少年がとてもお腹をすかしていることを察して、大きなコップ一杯の牛乳を持ってきました。
少年はそれを飲み終え、いくらあげれば良いかと聞くと、「私は母から、親切な行いに対して、お金を受け取ってはいけないと教えられたの」と答えました。
それから数十年がたちました。少年にミルクをあげた女性は、重病を患っていました。
地元の医師では手に負えず、都会の大きな大学病院に送られた彼女の病気は非常に珍しいもので、治療のために全米から専門の医師たちが呼ばれました。ハワード・ケリー医師は、その一人でした。
ケリー医師は、新参の患者がどこの町から来たかを知ると、彼女の部屋を訪れ、彼女を診断しました。
ケリー医師が全力で治療に当たったお陰で、無事に難病を克服し、彼女は元気を取り戻しました。
彼女が退院した数日後、請求書が自宅に届きました。支払いが一生かかるような高額であることがわかっていたため、恐る恐る封を開けました。すると、そこには、「コップ1杯の牛乳によって支払い済み。Dr. Howard Kelly」と書かれていたのです。
ハワード・ケリー医師は、あの時にお腹を空かせた少年だったのです。
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