伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

琵琶湖周航の歌

 【旭日に映える琵琶湖】


 琵琶湖周航の歌(びわこしゅうこうのうた)は、滋賀県の琵琶湖および周辺地域を題材とした、日本の学生歌の一つで、丁度100年前の1917年(大正6年)6月28日琵琶湖岸今津の宿で原詩が作られました。
 この詩を作ったのは、当時旧制第3高等学校(現京都大学)の学生であり水上部(ボート部)員であったった19歳の小口太郎(おぐちたろう)、部の恒例行事である琵琶湖周航の途中、琵琶湖や滋賀県の自然風景・建築物などを盛り込んで「琵琶湖周航の歌」として部員に披露しました。
 その後、何度か修正を施し、現在の形になったのは、翌年でした。
 小口太郎は、高校卒業後東京帝国大学の理学部に進み、在学中に研究開発した「有線及び無線多重電信電話法」により国際特許を取る等将来を嘱望されましたが、卒業の2年後1924年(大正13年)5月16日、惜しくも26歳の若さで病死しました。


 この詩に付けられた曲は、元々琵琶湖ともボートとも無関係なものを借用したものです。
 作曲者は吉田千秋、元は大日本農会附属東京農学校(現・東京農業大学)の学生でしたが、肺結核が悪化した為19歳で退学しました。
 その後、茅ヶ崎南湖院などで療養しておりましたが、20歳になった時、2年前に自ら翻訳していた英国の児童唱歌「睡蓮(和名ひつじぐさ)」に、自ら作曲した曲を付けたものが、雑誌「音楽界」の大正4年(西暦1915年)8月号に掲載されました。
 吉田千秋は、稀有な才能に恵まれ、しかも努力の人でした。
 退学後、独学で7箇国語を修得して、訳詩や作曲などに勤しみましたが、残念ながら健康には恵まれず、1919年(大正8年)  2月24日、24歳の短い生涯を閉じました。


 この当時、著作権の概念は希薄であったようで、三高の学生は、吉田に断わることなく、「ひつじぐさ」の曲を借用して替え歌として「 琵琶湖周航の歌」を歌っておりました。


 吉田自身も自分の曲が使われていることを知る由もなく世を去っています。
 共に夭逝した作詞者・作曲者、この二人の天才が生きて出会うことはありませんでした。


 「 琵琶湖周航の歌」は、テレビもラジオもないこの時代に、口伝えだけで、数年後には全国の学生が歌うようになっていました。


【琵琶湖周航のコース図】


 上図は、作詞者の小口太郎が作詞する前年の大正6年6月に実際にボートでたどった周航コース図です。


 コースは、琵琶湖南西の三保ケ崎(現大津市浜大津の大津港付近)を起点に、時計回りになっています。
 歌詞に登場する地名や建物も、この順になっています。
 なお、第1節の歌詞にある琵琶湖周航のスタート地点「志賀の都」とは、7世紀後半に天智天皇が約五年間、都をおいた近江宮(おうみのみや)、三保ケ崎の所在地である滋賀県大津市を指しています。



 琵琶湖周航の歌        琵琶湖周航之歌


1節
われは湖(うみ)の子 さすらいの      我是湖的孩子 流浪
旅にしあれば しみじみと          如果要旅行有 痛切地
昇る狭霧(さぎり)や さざなみの      上昇的霧 微波
志賀の都よ いざさらば           志賀的都城  那麼再見吧

2
松は緑に 砂白き              松到綠沙白來到
雄松(おまつ)が里の 乙女子は       雄松村里的 少女孩子
赤い椿の 森陰に              紅的山茶的 森林向陰
はかない恋に 泣くとかや          為虛幻的戀愛懊悔的話


3節
波のまにまに 漂えば            如果隨著 洋溢波
赤い泊火(とまりび) 懐かしみ       紅的泊火懷念
行方定めぬ 波枕              不決定去向的 乘船出門旅行
今日は今津か 長浜か            今天是今津村還是長濱村


4節
瑠璃(るり)の花園 珊瑚(さんご)の宮   藍寶石的花園珊瑚的宮
古い伝えの 竹生島(ちくぶじま)      舊的傳言的 竹生島
仏の御手(みて)に 抱(いだ)かれて    佛的御手被抱
眠れ乙女子 やすらけく           能睡著少女孩子 安樂


5節
矢の根は深く 埋(うず)もれて       箭頭深深地 埋洩露
夏草しげき 堀のあと            夏天起草戲劇溝後邊
古城にひとり 佇(たたず)めば       為古城一個人佇立樣子
比良(ひら)も伊吹も 夢のごと       比良山和伊吹山都每夢的


6節
西国十番 長命寺              西國十號寺的長命寺
汚(けが)れの現世(うつしよ) 遠く去りて 塵埃的世間 遠方離開
黄金(こがね)の波に いざ漕(こ)がん   為黃金的波浪 那麼開始漕
語れ我が友 熱き心             能談我朋友 熱的心




琵琶湖周航の歌1~6番


 おまけ: 二胡演奏▼