無可奈何 〔奈何(いかん)すべくもなし〕
「無可奈何」(いかんすべくもなし:どうすることもできない)は、アメリカカリフォルニア州サンフランシスコ市で生まれて香港で育ち、アメリカ国籍と香港の永住権を持つ男歌手鄭嘉穎(ていかえい、英名ケビン・チェン;Kevin Cheng,1969年8月15日-)が、2006年8月8日 に発表したアルバム「鄭嘉穎 新曲+精選」の18曲中5曲目に収録している楽曲です。
この楽曲は、台灣の著名な音楽家劉家昌(りゅうかしょう、1940年或1943年4月13日-)が作詞・作曲した台灣國語版です。
この楽曲の粵語(広東語)版としては、香港のテレビドラマ《寫意人生》(思いのままの人生)の主題歌として、香港の女自作自演歌手の陳詩慧(ちんしけい、1981年10月17日-)が歌詞を付けて、鄭嘉穎が演唱した《活得寫意》(思いのままに生きる)と題するものもありますが、こちらの歌詞の内容は劉家昌の原詞とは殆ど正反対のものになっています。
劉家昌の原詞の詞題「無可奈何」(いかんすべくもなし、いかんともするなし)の原義は、「どうすることもできない」或いは「どう仕様もない」との意で、字義通りに解すると挫折感や諦観を詠じているようにも見えます。
しかしながら、劉家昌の詞作は一般に短いものが多いのですが、非常に深遠なものが多く、この歌詞も単なる諦めの境地を詠じたものではないような気がします。
伊賀流の解釈としては、「人は皆多くの富や名声を手に入れるために努力を重ねて生きている。しかし、その欲望が叶えられることは殆どなくそれが苦しみになっている。努力することは無論必要であるが、求めても得られぬことが多いことを悟るべきである。そもそも、人は無一物で生まれてきて無一物で世を去るのだから。」と劉家昌は主張しているように思います。
これは、仏教の開祖釈迦が喝破した「一切皆苦」、即ち「人には思い通りにしたいという欲望があるが、それが思い通りになることはない。そこに全ての苦しみが生ずる原因がある。」とする教義に相通ずる哲学的なものです。
今回は、劉家昌が2011年に香港で挙行した「滋味知己四十年演唱会」(友と味わった四十年の演唱會)と題するコンサートで、香港の女歌手關心妍(かんしんけん、1979年7月31日-)とのデュエットとして演唱したセルフカバー版でご紹介します。
なお、劉家昌が音楽家として出道したのは台灣では1968年のことですので、2011年には出道四十三年になります。
資料が不足しており確証はありませんが、「四十年演唱會」とは、香港での出道が四十年との意と思います。
「人は無欲にして生まれ出で、無欲にして去って行く」とする、劉家昌の人生哲学を御清聴下さい。
無可奈何
奈何(いかん)すべくもなし
どうすることもできない
作詞:劉家昌 作曲:劉家昌 編曲:劉家昌
我就這樣的來 我就這樣的去
甚麼也沒得著 也沒有甚麼失去
我(われ)就(まさ)に 這(こ)の樣にして來たり
我(われ)就(まさ)に 這(こ)の樣にして去る
甚麼(いかなる)ものも也(ま)た得ず
也(ま)た甚麼(いかなる)ものも失ふこと有らずして去る
私は正にこのようにしてやって来て
私は正にこのようにして去って行く
いかなるものを得ることもなく
またいかなるものを失うこともなく去って行く
我就這樣的來 我就這樣的去 *1
甚麼也沒得著 也沒有甚麼失去
我(われ)就(まさ)に 這(こ)の樣にして來たり
我(われ)就(まさ)に 這(こ)の樣にして去る
甚麼(いかなる)ものも也(ま)た得ず
也(ま)た甚麼(いかなる)ものも失ふこと有らずして去る
私は正にこのようにしてやって来て
私は正にこのようにして去って行く
いかなるものを得ることもなく
またいかなるものを失うこともなく去って行く
茫茫蒼海往何處去
沒有盡頭人生坎坷之旅
茫茫(ぼうぼう)たる蒼海(そうかい) 往(い)きて何處(いずこ)に去るか
盡頭(じんとう)有らざる 人生坎坷(かんか)の旅
広々とした青い海を行けばどこに辿り着くのであろうか
果てしなき 人生の志を得ぬ不遇の旅のように
空手來又空手去
講求名利又是何必
空手(くうしゅ)にして來たり又空手にして去る
名利(めいり)を講求(こうきゅう)すること又是れ何んぞ必(かなら)ずしもならんや
何も手にせずやって来て また何も手にせず去って行く
名誉と利益を追求することが またどうして必要であろうか
我就這樣的來 我就這樣的去
甚麼也沒得著 也沒有甚麼失去 *2
我(われ)就(まさ)に 這(こ)の樣にして來たり
我(われ)就(まさ)に 這(こ)の樣にして去る
甚麼(いかなる)ものも也(ま)た得ず
也(ま)た甚麼(いかなる)ものも失ふこと有らずして去る
私は正にこのようにしてやって来て
私は正にこのようにして去って行く
いかなるものを得ることもなく
またいかなるものを失うこともなく去って行く
(間奏)
*1~*2再唱
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