伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居する隠者の戯言です。

漢詩:望月懷遠(月を望んで遠きを懷う)

 【望月懷遠詩意圖】


 「望月懷遠」は、盛唐の詩人張九齡(ちょう きゅうれい)作の五言律詩です。


 この詩は、「閨怨詩」に区分されるものです。
 「閨怨詩」とは、夫や恋人と離れて暮らす婦人の、ひとり寝の寂しさをうらむ気持ちを詠じたものです。


 唐代には女流詩人は殆どいませんでしたので、閨怨詩も大半は男の詩人が作っています。
 男の詩ではあっても、婦女子の立場で詠ずるのを常としますが、中には男自身の立場或いは第三者の客観的立場、更には1首の中でそれらの複数の立場で詠じたものも有り、その解釈は人それぞれで異なります。
 そのため、専門家の書いたテキストでもなかなか納得できるものが見当たりません。


 そこで、今回は、伊賀山人の客観的立場即ち天上から見下ろしている貌(かたち)からの新解釈をご紹介します。
 この解釈は、台灣の友人から贈呈された蘅塘退士(号:こうとうたいし、実名:孫洙)が編纂した「唐詩三百首」を底本(ていほん:翻訳・校訂などのもとにした本)としています。


 なお、「閨怨詩」に限らず、漢詩には「月」を詠みこんだものが数多くありますが、それは古来、月は遠く離れた人と人との心を結びつけると考えられていたことによります。



(白文)
 望月懷遠
         張九齡

 海上生明月,天涯共此時。
 情人怨遙夜,竟夕起相思。
 滅燭憐光滿,披衣覺露滋。
 不堪盈手贈,還寢夢佳期。


(訓読文) 
  月を望んで遠きを懷(おも)う
                張九齡(ちょうきゅうれい)

 海上(かいじょう) 明月(めいげつ)を生(しょう)じ、
 天涯(てんがい) 此(こ)の時(とき)を共(とも)にす。
 情人(じょうじん) 遙夜(ようや)を怨(うら)み、
 竟夕(きょうせき)相思(そうし)を起こす。
 燭(しょく)を滅(めっ)して光(ひかり)の満(み)つるを憐(あわ)れみ、
 衣(ころも)を披(はお)りて露(つゆ)の滋(しげ)きを覚(おぼ)ゆ。
 手(て)に盈(み)たして贈(おく)るに堪(た)えず、
 還(かえ)り寝(い)ねて佳期(かき)を夢(ゆめ)む。


(口語訳)
 月を見上げて遠くにいる人を想う
                張九齡(ちょうきゅうれい) 


 海の上に明るい月が上がり、
 遥か遠くにいる二人は時を同じくして眺めている。
 多情の乙女にとっては、長い夜が恨めしく、
 夜通し、恋する人への想いを引き起こしている。
 心を繋ぐ月の光を愛でるため、ロウソクの灯を消し、
 夜露が降り敷くのに気づいて、衣を羽織る。
 月の光を両手いっぱいに満たしてみても、恋する人に贈るすべもなく、
 寝室に戻って、しばしまどろみ恋人に逢う楽しい日を夢見る。



 【唐詩三百首より】



唐詩 五言律詩 1 望月懷遠 Erin 朗誦+解釋


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