贈り物：禮物：The Gift（後篇）

2021/07/01 23:02

【日本から台湾へのワクチン追加供与に感謝する台灣の蔡英文総統のフェイスブック画像】

　６月２５日、日本政府が新型コロナウイルスワクチン約100万回分を台湾に追加供与すると発表したのを受け、蔡英文（さいえいぶん）総統は同日18時43分、フェイスブックで上掲画像を添付して「日本政府、日本国民の助力に改めて感謝する」と謝意を表明し、「台日友好の深い友情が再び示された」と述べています。更に、同日22時11分にはツイッターで日本語による感謝の意を表明しています。（時刻は台灣時間）

　日本からのワクチン追加供与に、台湾内では相次いで感謝の声が上がっています。台灣衛生福利部中央流行疫情指揮中心（中央感染症指揮センター）の陳時中（ちんじちゅう）指揮官は25日午後の記者会見で、「非常に嬉しく、非常に感謝している」と述べています。

　陳指揮官は、日本政府からのタイムリーなワクチン提供によって、接種対象がさらに拡大され、接種率も高めることができるとし「改めて感謝する」と謝意を示しました。陳指揮官をはじめとする指揮センターのメンバーらは「ありがとう」の日本語や日本国旗のイラストなどが入ったマスクを着用して記者会見に臨みました。

　台灣政界では、与党・民進党がフェイスブックで「日本政府に心から感謝する」と表明しただけではなく、野党・國民党もツイッターで「二度のご支援に対し、心より感謝申し上げます」と日本語で投稿しました。
　その他の野党の意見については報道がありませんが、台灣の立法院（国会）議員は民進党と國民党だけで約９０％の議席を占めていますので、日本への感謝の意は立法院の総意と見做してよいでしょう。

　ところが、この日台両国の友情に水を差すような次の記事が６月１９日付の日刊ゲンダイDIGITALに掲載されました。
　その要旨は、台灣でアストラゼネカ（ＡＺ）のワクチンを接種した人々に大量の死者が生じて、台灣の民衆は「このように危険で日本でも使わないワクチンを送りつけてきた」日本に激怒して暴動が起きかねないというものです。　

　この記事を真に受けて、日本のＳＮＳでは記事の論拠を確認することもなく無分別にその内容を拡散して、日台両政府やＡＺ社を批判する無責任な匿名の輩のコメントが陸続と投稿されています。

　伊賀山人もこの記事を最初に読んだときには、「大手有力ケーブルテレビTVBSが実施した世論調査」と称する一文が含まれたいたため、ついうっかり騙されるところでした。

　しかしながら、この記事は悪意のある者が偽情報で粉飾した捏造記事です。

　その理由は、先ず第一に、発信元が「日刊現代」ですが、この会社は、従軍慰安婦問題という捏造記事を垂れ流した朝日新聞と同様、報道機関の社会的公器としての自覚が乏しく、確証もなく裏付けもない所謂「飛ばし記事」を掲載する常習犯です。
　次に記者名として、「売文家・甘粕代三」と記載してありますが、伊賀山人の全く知らない人物です。そこで、プロフィールを検索してみると自分のブログで次のように表示していました。

1960年、東京生まれ。高校時代から競馬にのめりこむ。
早稲田大学第一文学部卒。在学中に中国政府官費留学生。卒業後、東京新聞記者、テレビ朝日記者、同ディレクター、同台北開設支局長などを務める。
中国留学中に香港競馬を初観戦、94年ミッドナイトベットの香港カップ制覇に立ち会ったことから香港の競馬にものめりこみ、2010年、売文業に転じた後は軸足を日本から香港に。
香港の競馬新聞『新報馬簿』『新報馬経』に執筆、テレビの競馬番組にも出演。現在、新報馬業（『新報馬簿』『新報馬経』）駐日代表、北京市馬術運動協会高級顧問を務める。

　所詮、「売文家」などという胡散臭い職業を標榜する輩ですので、その自己紹介などそのまま信用することはできませんが、仮にこの自己紹介が事実であるとするなら、語るに落ちるとはこのことです。
　「中国政府官費留学生」とありますが、中共が中共の国費を使って官費留学を受け入れているのは慈善事業ではありません。
　中共の情報・心理作戦を担当する工作員を養成するためです。やむを得ざる場合も、中共のシンパを作ることを必ず達成すべき目標としています。
　それを臆面もなく自己紹介に書き込んでいるのは、この売文家は相当な馬鹿か、或いは能力不足で工作員になれなかったかのどちらかでしょう。
　また、この記事の中には、根拠として台湾のケーブルテレビTVBSが実施した世論調査に言及し、台湾人でＡＺのワクチン接種を希望する人は僅か４％と嘯いていますが、伊賀山人が当該世論調査を検証したところ２９％でした。その他にも調査結果として売文家が引用するデータは全て出典のＴＶＢＳのデータとは異なっています。この売文家が裏付けとなるデータを歪曲引用して記事を捏造していることは明白です。なお、この捏造記事では世論調査以外の情報源などの根拠については全く記載されていません。
　更に職歴として「東京新聞」や「テレビ朝日」を列挙していますが、これらはどちらも日刊現代と同様に、営利を図ることを企業の最大目的として信憑性の不確かな報道を繰り返しているため訴訟沙汰になることの多い会社です。

筆者注：
　蛇足ながら、「東スポ」という新聞も出鱈目記事を掲載することで有名で、かつて事実無根の記事を掲載された人物から名誉棄損で告訴されたことがありますが、裁判では「東スポは元々読み物としてフィクションの記事を掲載することで成り立っている出版社であり、東スポの記事を真に受ける人は皆無であるので、東スポで何を書こうとも名誉毀損には該当しない。よって原告の訴えを却下する。」との判決が出ています。したがって、東スポの記事は作り話の小説のようなものとお考えください。

　伊賀山人としてはこのような不審人物が出鱈目報道機関に投稿した捏造記事など、通常は無視するだけですが、今回はあろうことか伊賀山人の前回の記事にまで、匿名の輩から前記捏造記事を根拠に当記事を誹謗中傷するコメント（即刻削除済み）が送り付けられたので、前記売文家の記事を科学的かつ論理的に検証してみました。
　検証の順序としては、前記売文家の記事の信憑性確認の為、先ず台湾のケーブルテレビTVBSが実施したとする世論調査（民調）を確認し、次いで台湾最大のブログサイト「痞客邦」と、同じく最大のネット掲示板「批踢踢實業坊」を検索しました。
　その後、ＡＺワクチンの有効性等について、各ワクチンの治験段階でのデータ、既に全世界で接種されている約３０億回のうちデータが明らかな約１億回分の追跡調査結果など、信頼できる研究機関の学術論文と、国際機関・国家機関の公式文書を情報資料として収集し分析評価しました。

　検証の要点は、次の３点です。

１　ＡＺワクチンの予防効果は他のワクチンよりも劣るのか？
２　ＡＺワクチンの有害な副反応は他のワクチンよりも大きいのか？
３　台湾人がＡＺを贈った日本に激怒し暴動を起こそうとしているのか？

　結論から先に申しあげますと、予防効果は他のワクチンと大差はありません。ただし、南ア変異ウィルスに関しては、効果が10～30％くらいに落ちるようで、現在ＡＺ社はオクスフォード大学と連携してワクチンの改良型を開発中です。
　また、副反応についても大差はありません。むしろ、アナフィラキシーショックなどの重篤な副反応については、他のワクチンよりも少ないという信頼できるデータが示されています。
　台湾で暴動が起きかねないとの荒唐無稽な意見は、報道にもブログにもチャットにも記載が有りません。
　つまり、前記売文家の書いた記事は、何の根拠もない捏造記事です。
　この売文家が記事を捏造する理由については、この慮外者の正体に関する情報資料が不足しているので断定はできませんが、ただ単に馬券を買う金を稼ぐためか、或いは中共情報工作の下請け機関としてネットで世論誘導を行う「網軍（もうぐん）」に加担しているかのどちらかと推定します。
　なお、検証の課程で、この捏造記事が公開されてから僅か２時間半後に、フランスの国営ラジオ放送「ラジオ・フランス・アンテルナショナル（Radio France Internationale、略称RFI）」のサイト記事にこの捏造記事を何ら裏付けを取ることなく、その要旨を引用し支那語の「簡体字版」と「繁体字版」の二つに一字一句同じ記事を掲載しているのを確認しました。
　この記事の記者は「东京特约记者楚良一」と表示されていますが、この人物が何者かは公開資料がありません。前記売文家と同一人物か、単なる無責任な偽情報拡散者か、中共の世論誘導工作員でしょう。

　以下、検証の結果について、根拠を列挙して詳細に書いている途中で、ムラゴン記事の字数制限に引っかかってしまいました。
　記事を分割するのも面倒なので、要点のみ記述し、根拠文書については記事末に一括してリンクを張っておきます。ただし、学術論文についてはその殆どが技術的な問題でリンクを張れませんので、割愛しました。

１　ＡＺワクチンの予防効果は他のワクチンよりも劣るのか？
　　治験段階での有効性評価は、ファイザーが約90％であるのに対し、ＡＺは約70％で一見劣っているように見えることが、大衆が不安を感じＡＺは効果が劣るという風評が生ずる原因になっています。しかしながら、この成績は治験の条件が異なっており、単純に比較するのは適切ではありません。
　　ファイザーの開発時期は早かったため、ウィルスは武漢の原株だけの段階で、しかもアメリカ国内でのみ治験が行われています。これに対し、ＡＺはやや遅れて開発を完了したため、その時点で既にイギリス株（アルファ株）、南ア株（ベータ株）及びブラジル株（ガンマ株）が発生していました。しかも、ＡＺは正にこの変異株が発生したイギリス、南アフリカ及びブラジルの３箇国で治験を行っているので、成績が低下するのは当然のことです。
　　現在既に世界中で３０億回のワクチン接種が行われていますが、接種したにも拘らずコロナに感染する率に殆ど差異はなく誤差の範疇です。
　　なお、各国でのワクチンの承認はそれぞれの国で定めた基準により、ワクチンの有効性については専門家が評価しています。
　　日本でＡＺワクチンを承認した時点では、ファイザー製の緊急使用を認めていた国は85箇国、モデルナ製は46箇国に対し、AZ製は後発でありながら101箇国に昇っていました。この事実は、ＡＺの有効性を各国の専門家が間接的に証明しています。
　　また、ＡＺは取り扱いの容易さと価格の安さで、他のワクチンを圧倒しています。
　　保管はファイザーは零下75°Ｃ±15°Ｃ、モデルナは零下20°Ｃ±5°Ｃの超低温で冷凍する必要がありますが、ＡＺは2～8°Ｃで冷蔵するだけで済むので、南国や途上国などでは需要が高まっています。
　　価格は、１回あたり、ＡＺが3ポンド（約415円）弱であるのに対し、ファイザーは約6.5倍の15ポンド（約2077円）、モデルナのワクチンは約9.3倍の28ポンド（約3877円）です。ＡＺが安いのは、利潤なしの原価で販売しているからです。その理由は、開発者で世界的に有名なワクチン学者であるオックスフォード大学のセーラ・ギルバート教授の意向によります。彼女は、これまでも新型ウィルスが発生する都度ワクチンを開発して、世界中から高く評価されていますが、今回も世界のパンデミックを防止するため、途上国でも容易に摂取できるように利益を放棄してワクチンを提供するという堅確な信念を示しています。
　これに対し、米国のワクチンの価格には製造原価に営利企業としての利益分が上乗せされているので高額になっています。ＡＺワクチンがアメリカのワクチンよりも劣っているとする報道が多いのは、アメリカの製薬会社の陰謀ではないかとの未確認の情報もあります。

２　ＡＺワクチンの有害な副反応は他のワクチンよりも大きいのか？
　　現在既に世界中で３０億回ほどのワクチン接種が行われ、その中で約1～2億回分のデータが採られています。
　ワクチン接種後の血栓症の発症率、死亡率、その他の軽微な副反応共に殆ど差異はありません（接種後とはワクチンが原因とは限らない）。却って、アナフィラキシーなどの重篤な副反応については、ＡＺのほうが少ないことが報告されています。

３　台湾人がＡＺを贈った日本に激怒して暴動を起こそうとしているのか？　
　　TVBSが実施したとする民調、東森新聞及び三立新聞並びに痞客邦及び批踢踢實業坊をくまなく検索しましたが、そのような記事は1件も見当たりませんでした。
　　記事もコメントもその大半は日本への感謝の意を表明しています。ごく一部、「ワクチンを政治手段にしてはならない」などと中共の報道官が言うようなことを書いているものもありましたが、他の大多数の感謝のコメントの中で見つけるのは甚だ困難です。
　　台北駐日経済文化代表処（駐日台灣大使館）の謝長廷代表は、中共系ニュースサイト「観察者網」が、前記「日刊現代」の売分家の記事を転用し、更にその記事を同じく中共系のサイト「中国通信社」が再転用していることと、台灣のニュースサイトでそのような報道はないことから、これらの捏造記事の拡散は、中国共産党によるメディアを駆使した「日台分断工作」の可能性があると指摘しています。

　以上、今回の台灣へのワクチン提供に関して日本政府を誹謗中傷し、日本人の意識を操作しようとする捏造記事への反論として要旨のみ列挙しました。
　その論拠の詳細について知りたい方は、記事末の根拠文献のリンクをご参照ください。

追記：ＡＺの安全性について
　伊賀山人は、ＡＺの危険性或いは安全性を確認するため、台灣の衛生福利部疾病管制署が毎日発表している「COVID-19 疫苗統計資料（コロナワクチン統計資料）」を確認しています。この資料には、接種したワクチンの種類や回数と接種後発生した不良事象について記載されています。無論、不良事象についてはワクチン接種が原因と明確に判断できるのは筋肉痛や発熱などの接種即後に発生する軽微なものだけで、死亡を含む重篤な症状については司法解剖や病理解剖を行って調査してもワクチンが原因と断定される証拠はありません。

　現在、台灣ではＡＺの他にモデルナのワクチンも使用されていますが、使用回数や使用対象者などの使用条件が著しく異なるため、統計的に両者を比較することは有意ではありません。因みに、使用回数は7月1日までにＡＺが約184万回に対しモデルナは13万回、ＡＺが主に高齢者を対象としているのに対しモデルナは医療関係者など主に若い人々を対象としています。それぞれのワクチンごとの接種全数に対する75歳以上の高齢者比率は、ＡＺ28.5％（524,886回）に対しモデルナは僅か0.43％（538回）です。65歳以上に範囲を広げても、ＡＺ30.61％（562,945回）に対しモデルナは0.48％（602回）に過ぎません。

　従って、以下7月1日発表の統計資料の中から、最も重篤である死亡統計の中から、ＡＺのみに限定して分析します。

　7月1日までの28日間でＡＺ累計接種回数184万回で、その接種後死亡が確認されたのは281人です。
　その内216人は75歳以上の高齢者であり最高齢は101歳ですので、ワクチンの影響よりも基礎疾患の影響の方が遙かに大きいものと考えられます。
　このデータから他の不確定要因を考慮外として、ワクチン接種後の年間平均死亡率を単純計算すると、0.199％となります。
　台灣衛生福利部の台灣における死因統計結果によると、2020年の台湾全土での死亡率は0.734％で、病死だけに限定すると0.554％です。
　このことから、ワクチンを接種した人の死亡率は、台灣全体の死亡率よりもはるかに低いことが解ります。

　ワクチン接種の二次効果として基礎疾患の改善などがあったのかどうかについては、今後の研究が進捗するにつれて明らかになるものと思われますが、現時点においてもワクチン接種により死亡率が増加することはないとだけは言えるでしょう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　2021.7.2　伊賀山人

　「贈り物」として贈るのは、形式的には「物」ですが、本当に大切なのは「物」そのものではなく、「物」に託して贈る「気持ち」の方なのです。
　ＡＺは毒ではありません。
　ＡＺはファイザーと遜色のない効果を持ち、ファイザー以上に副反応の少ない優秀なワクチンです。
　三つ子の母親としても知られるセーラ・ギルバート教授が、昨年1月から休みなく毎日朝4時から夜8時までの16時間に及ぶ研究を続けて開発し、途上国の貧しい人々でもいち早く使えるように原価で提供しているワクチンです。

　贈り物の「物」そのものとしても何らファイザーと比べて遜色はありません。
　「物」に託す日本の「善意」や「激励」などの「気持ち」は十分に伝わるでしょう。
　そして、台灣からは絶大な「感謝」の「気持ち」が帰ってきています。
　「気持ち」の優劣や大小を比較することはできませんが、日本人でも前記自称「売文家」のように歪曲引用捏造記事を撒き散らして日台の友情に水を差そうとする輩がいることを考えると、或いは、「物」を贈った日本の方が、台灣からより多くの「気持ち」を受け取ったともいえるでしょう。
　「物」に託す「気持ち」に思いを致すとき、もしかすると贈り物とは、贈られた人よりも贈った人の方が更に多くの価値を得られるものなのかもしれません。

以下、「根拠文献リンク集」

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