伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

グレープフルーツ

【伊賀山人の庭の一隅で育つグレープフルーツの木(去年の蝉の抜け殻付き)】


 グレープフルーツは、英語名でgrapefruit(ブドウの果物)、漢語名で葡萄柚(ブドウのブンタン)、亜熱帯を原産とする柑橘類の1種です。
 その名は、木が成長して果実ができると、ブドウ(grape)の房のように鈴なりになることから名づけられました。


 昨年、この苗木を1本買ってきて、庭の片隅に植樹しました。
 成長の遅い木ですが、現在樹高1メートル、去年の2倍くらいにはなっています。
 
 当然ながら、未だ花も実もつきません。
 ものの本によると、花が咲くまで早くて4年、遅ければ10年以上の歳月が必要なようです。


 伊賀山人が、生きてこの葡萄柚の花を見ることができるのかどうか、大部分の諦観と微かな期待を込めて、1首賦してみました。(擬柳宗元之柳州城西北隅種柑樹)


 
 【白文】
山居庭西南隅種葡萄柚

 手種黃柚唯一株,
 春來新葉遍庭隅。
 方同仙女憐皇樹,
 不學吳李利木奴。
 幾歳開花聞噴雪,
 何人摘實見垂珠。
 若教坐待收穫日, 
 滋味還堪養老夫。


【読み下し文】
山居の庭の西南隅(せいなんぐう)に葡萄柚(ぶどうゆう)を種(う)う

手ずから種(う)う 黄柚(こうゆう)の唯だ一株(ひとかぶ),
春來(しゅんらい) 新葉(しんよう) 庭の隅に遍(あまね)し。
方(まさ)に仙女の皇樹(こうじゅ)を憐れむに同じきも,
呉の李の木奴(ぼくど) に利するを學ぶにあらず。
幾(いづ)れの歳か 花を開きて 雪の噴(ふ)くことを聞き,
何人(なんぴと)か 實(み)を摘(つ)みて 珠(たま)の垂るるを見るらん。
若(も)し 收穫の日を 坐して待 たしむれば,
滋味は 還(ま)た老夫を養うに 堪(た)へん。


【和訳】
山居の庭の西南の隅にグレープフルーツを植えた

手ずからたった一株のグレープフルーツの苗を植えてみたら、
春には、若葉が庭の隅にまで広がる。
仙女が、南国に生ずる香り高い嘉樹である蜜柑を愛でる気持ちと同じであって、
呉の太守李衡が、将来の利益を目論んで蜜柑を植えたことを真似たのではない。
何年か後に花が開き、雪が舞うような白い花の匂いを嗅ぎ、
誰かが、実を摘みながら真珠のように美しく垂れ下がった房を見るだろう。
もし、生き延びて収穫の日を待つことができるのであれば、
グレープフルーツの滋味は、年老いた自分を十分楽しませることができるだろう。