伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

山水

 山水とは、文字通り山と水のことですが、広くは、それらを描いた山水画や詩に綴った山水詩のことも意味します。


【山水圖】


 伊賀山人の母親は生前、掛け軸の表装をするのが趣味でした。
 上掲画像は、亡母が表装した山水図です。
 遠景に霞みのかかった山を配し、中景に滝と川、近景に岩山に立つ紅葉と岩棚に座っている一人の隠者を描いています。


 支那(萬里の長城に囲まれた地域)の画人の手に成るもののようですが、作者も画題も不明です。
 この山水図を見て、直感的に千古の絶唱といわれる李白の詩が思い浮かんだので、本日はそれをご紹介します。



 望廬山瀑布 二首其二              
                  李白 
 日照香爐生紫烟,
 遙看瀑布挂前川。
 飛流直下三千尺,
 疑是銀河落九天。


 (訓読文)
 廬山(ろざん)の瀑布(ばくふ)を望む 二首其の二

日は香爐(こうろ)を照らして紫烟(しえん)を生ず
遥かに看る 瀑布(ばくふ)の前川(ぜんせん)に挂(か)かるを
飛流直下(ひりゅうちょっか) 三千尺
疑うらくは是れ銀河の九天(きゅうてん)より落つるかと


 (和訳)
 廬山の大滝を望み見る 二首連作のうちの其の二

淡い日差しを受けて、廬山の一角にある香炉峰の周辺には紫色の霞がたなびいている
遥か遠くに、大きな滝が峰の上から眼前の川までぶら下がるように落ちているのが見える
飛ぶように速い流れが、三千尺の高さから真っ直ぐに落下している
まるで、天の川が九層の天の上から落ちてきたかのようだ


筆者注:

 転句に見える「三千尺」とは、メートル法では910メートルですが、ここでは実数ではなく滝の壮大さを誇張した表現です。

 結句で、この滝を天を覆う天の川に見立てるなど、この壮大な詩風は李白の真骨頂です。