伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

仰げば尊し(台灣編)


 日本の唱歌「仰げば尊し」は、台灣でも戦前の日本統治下で歌い継がれてきました。
 戦後、この曲に台灣の作詞家張方露が台湾国語の歌詞を付けて、現在でも台灣の卒業歌として殆ど全ての学校の卒業式で歌われています。


 歌詞の内容は、恩師への感謝の念を詠ずるところは日本と同じですが、日本の歌が「身を立て 名をあげ やよ励めよ」と、私的な立身出世を歌うのに対し、台灣の歌は第三節で主として男子に対し「 民主共和,自由平等,農工兵商に憑(つ)いて任(にん)とせん,」と詠じて、政治的社会的な貢献を歌っているところに特徴があります。
 これは、終戦直後の国民党政府が台湾に進駐した頃には、大陸中共からの侵略が迫っていたことも影響していますが、公私を比ぶれば公が重しとする台湾人の意識が現れているものと考えられます。
 なお、歌う主体としては、第1節は卒業生、第2節は在校生、第3節は全員の立場に区分されています。


 この詞は、日本の「仰げば尊し」の四四六調に倣って、漢字で四字四字六字で1句を為す文語文定型詩に作られており、しかも句末に古来の平水韻と部分的には現代の台灣國語の音韻とで脚韻を踏んでいます。
 今回は、訓読文と和訳とを添付してご紹介します。



 靑靑校樹 
 
靑靑たる校樹
 
青々とした校庭の樹


1節(卒業生演唱)
靑靑校樹,萋萋庭草,欣霑化雨如膏,
筆硯相親,晨昏歡笑,奈何離別今朝。
世路多岐,人海遼闊,揚帆待發清曉,
誨我諄諄,南針在抱,仰瞻師道山高。
靑靑(せいせい)たる校樹(かうじゅ),
萋萋(せいせい)たる庭草(ていさう),
欣霑(きんてん) 雨と化(くゎ)して 膏(あぶら)の如し,
筆硯(ひっけん) 相(あ)ひ親しみ,
晨昏(しんこん) 歡笑(くゎんせう)す,
今朝(こんてう) 離別するを 奈何(いか)んせん。
世路(せいろ)  多岐(たき)にして,
人海(じんかい) 遼闊(れうくゎつ)たり,
帆を揚げ 清曉(せいげう)を待ちて發(た)たん,
我を誨(をし)ふること 諄諄(じゅんじゅん)たれば,
南針(なんしん) 抱(いだ)くこと在り,
仰(あふ)ぎ瞻(み)る 師道  山の高きを。

青々とした校庭の樹
ふさふさとした校庭の草
湿気が恵みの雨となるのを喜ぶ
筆と硯のように親しみ 
朝晩喜びと笑いを共にした 
今朝の別れを一体どうすれば良いのだろうか?
人生に分かれ道は多く
人の世は 海のように果てしなく広い
帆を上げて清新な朝の船出を待とう
私に丁寧に繰り返し教え諭して頂き
人生の指針となったご指導を心に抱いている
仰ぎ見れば我が師の教えの道は山のように高い


2節(在校生演唱)
靑靑校樹,灼灼庭花,記起嚢螢窗下,
琢磨幾載,羨君玉就,而今光彩煥發。
鵬程萬里,才高志大,佇看負起中華,
聽唱離歌,難捨舊雨,何年重遇天涯。
靑靑たる校樹,
灼灼(しゃくしゃく)たる庭花(ていか),
記(おも)ひ起こすは 嚢(ふくろ)の螢ほたる 窗(まど)の下(ほとり),
琢磨(たく ま) せし 幾載(いくとせ),
君の 玉就(ぎょくしゅう)を羨(うら)やむ,
而今 (じ こん) 光彩(くゎうさい) 煥發(くゎんぱつ)す。
鵬程(ほうてい) 萬里(ばん り) ,
才(さい) 高くし 志(こころざし) 大(おほ)いにして,
佇(たたず)み看る 中華を負起(ふき)するを,
離歌(りか)を 聽き唱(うた)へども,
 捨て難(がた)き舊雨(きう う),
何(いづ)れの年(とし)にか 重(かさ)ねて天涯(てんがい)に遇(あ)はん。

青々とした校庭の樹
炎のように咲き誇る校庭の花
思い起こす 袋に入れたホタルを 窓のほとりに置いて灯りにしたことを
学業に励んだこの幾年月
君が玉のように磨き上げられるのを羨んだ
そして今君は輝かしい光彩を現した
大鵬が萬里を翔るように君の行く道は果てしなく遠い
才を高くし志を大きく持って
祖国中華を背負い立つ姿を佇んで見ていよう
別れの歌を聴きそして歌っていても
捨て難い旧友と
一体何年先に遥か遠くの地でまた会うことが出来るのだろうか


3節(全體合唱)
靑靑校樹,烈烈朝陽,宗邦桑梓重光,
海陸天空,到處開放,男兒志在四方。
民主共和,自由平等,任憑農工兵商,
去去建樹,前行後繼,提攜同上康莊。
靑靑たる校樹,
烈烈(れつれつ)たる朝陽(ちょうよう),
宗邦(そうほう) 桑梓(さう し) を 重(かさ)ねて光(かが)やかす,
海 陸 天空,
到る處(ところ) 開き放つ,
男兒 志は 四方に在(あ)り。
民主 共和,
自由 平等,
農工兵商に憑(つ)いて任(まか)せん,
去(ゆ)き去(ゆ)きて 樹(じゅ)を建(た)て,
前へ 行(ゆ)く 後(うしろ)を 繼(つ)ぎて,
提攜(ていけい)し 同(とも)に 康莊(かうさう)を上(のぼ)らん。

青々とした校庭の樹
燦々と降る朝日の光
祖国と故郷は重ねて輝いている

海陸天空
到る所が開き放たれており
男子の志は遍く四方にある
民主共和
自由平等の理念の下
農業・工業・兵役・商業それぞれの任務を果たそう
大樹のような目標を建てて任務に邁進し
先人の後を継いで
助け合って共に天下の大道を進んでゆこう





青青校樹


(次回へ続く)


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