伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

健康保険制度の仕組みについて

  目 次


1 序言

2 健康保険制度の概要

3 療養の給付(率)

4 高額療養費(上限金額)

5 保険未加入者の場合

6 その他

7 結言


1 序言
  伊賀山人は、肝臓病を患い30年間もの長きに亘り、治療中です。
  この間、転勤・転職により転院を繰り返し、約20箇所の医療機関で治療を受けてきました。


  国際貢献ならともかくとして、一般の医療は無償の慈善事業ではありません。
  医療機関は医療を提供し、患者はその代価を支払うという民法上の双務契約で成り立っています。
  医療者側がより良い医療を提供しようとする場合や、不必要な高額医療を施してにより医療機関収入の増大を目論むような場合には、患者の経済的負担が増えるという構図になっています。
  因みに、伊賀山人が30年間で支払った医療費総額は約一千万円になります。


  今回は、今年3月から5月にかけての伊賀山人の肝細胞癌治療の経験を踏まえ、我が国の健康保険制度の概要について、特にその利用にあたって留意すべき事項についてご紹介します。
  なお、生活保護を受けている方や難病指定を受けている方々などの医療については、それぞれ個別の医療費助成制度があり、また高齢者や被扶養者たる家族については勤労者とは異なる負担をする制度になっていますが、医療保障制度は甚だ複雑なので、今回は理解を容易にするため、一般の健康保険制度を受けている勤労者の方々を中心にご説明します。
  また、具体的な医療費の金額についても簡単の為、数値を万円単位に丸めて提示します。


  一例として、伊賀山人の肝細胞癌の手術に関連する医療費の総費用は、手術とその前後の検査やそれに伴う入院費などを併せて約250万円になりました。
  この金額は、貧乏個人事業主の伊賀山人が簡単に支払えるものではありません。


  患者の自己負担額を一定限度に抑えて、全ての国民が平均的な医療を受けられるようにするために、国としては健康保険制度を運営しています。
  ただし、この国の制度では療養中の休業に伴う収入の減少までは補償されませんので、収入減少に対応するリスク管理のためには民間の医療保険やがん保険などに加入しておく必要がありますが、今回はその説明は割愛します。
  また、健康保険制度の中には、細部制度として約10種類の給付制度がありますが、以下、その2本柱となる「療養の給付」と「高額療養費の支給」についてご説明します。


  なお、75歳以上の方については「後期高齢者医療制度」の対象となり、一般の健康保険とは別の制度が適用されますが、その説明も今回は割愛します。


2 健康保険制度の概要
  現在、我が国では国民皆保険が建前となっており、乳幼児から高齢者まで全ての国民  がいずれかの公的医療保険に加入することになっており、傷病をり患した場合には等しく保険適用の医療が受けられます。
  健康保険制度は、加入者の職業によって幾つかの種類がありますが、大きくは「健康保険」「国民健康保険」の2種類です。
  給与所得者(サラリーマン)が加入するのが「健康保険」で、その他の自営業者や無職の人などが加入するのが「国民健康保険」です。
  この二つの違いは、保険を運営する保険者が「健康保険」の場合には全国健康保険協会或いは企業自身が設立する健康保険組合であるのに対し、「国民健康保険」では市町村が保険者になります。
  なお、公務員の場合には国家や地方の公務員共済組合が保険業務を行いますが、制度の内容は「健康保険」とほぼ同じです。
  また、被保険者(加入者)が保険者に支払う保険料が「健康保険」の場合には労使折半ですので個人負担は半額で済みますが、「国民健康保険」では企業などのような使用者がいないので保険料は全額自己負担になります。


  どちらの保険も療養の給付や高額療養費を支給を中心に約10種類の制度を設けていますが、その給付内容はほぼ同じです。
  被保険者の自己負担については、まず「率」で抑えて、次に「上限金額」で抑える仕組みになっており、「療養の給付」が個人負担の「率」を示し、「高額療養費」「上限金額」を規定しています。


  ここで注意すべきことは、療養の給付の対象になるのは、あくまでも健康保険適用として認可されている医療だけです。
  つまり、個室などの特別料金や美容整形手術、先進医療の中で保険適用外とされているもの或いは何らかの事情で保健医療機関の指定を受けていない医療機関に罹った場合には給付の対象にならず全額自己負担になります。なお、食事代については標準負担額1食あたり460円を超える部分が保険で給付されますが、後で述べる高額療養費の給付対象にはなりません。


  また、同一の疾患に対して健康保険による治療と自由診療の治療を行った場合は「混合診療」とみなされ、健康保険は適用されず、すべてが自由診療の扱いとなります。
  例えば、今年(2018年)4月から性同一性障害(GID)の性別適合手術に公的医療保険が適用されることになりましたが、ホルモン療法は自由診療のままです。
  殆どのGIDの方々は性別適合手術を受ける前に身体を自認する性別に近づけるために自由診療のホルモン療法を受けているので、手術についても保険は適用されず、これまでどおり100万円超の費用を全額自己負担することになります。
  
3 療養の給付(率)
  医療を受けた場合には、先ずは「療養の給付」というものが受けられます。
  これは、保険加入者は総医療費(薬剤費を含む。)の何割かの一部負担金を支払うだけで、それを超える額については保険者が支払う制度です。
  一部負担金は患者の年齢や収入により「率」で定められており、小学校入学前の子供であれば2割、70歳~74歳までの方々は1割~3割ですが、一般の勤労者であれば原則3割と定められています。


  患者の負担を減らすという保険制度の趣旨に鑑みると、この制度は医療費総額が低い場合には有効に機能しますが、医療費が高額になると伊賀山人のような貧乏事業主では容易に支払うことが出来なくなります。
  例えば、医療費が1万円の場合には3千円を負担するだけなのでそれほどびっくりすることもなく支払えます。
  ところが、今回の伊賀山人の手術関連医療費総額が250万円ともなると、75万円の支払いとなり、流石の伊賀山人も覚悟はしていたものの預金残高を心配する事態になりました。
  国としては、このような事態に対処して患者の負担を一定の限度額以内に止めるために「高額療養費」の制度を設けています。


4 高額療養費(上限金額)
  高額療養費(こうがくりょうようひ)とは、健康保険法等に基づき、日本において保険医療機関の窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる制度で、公的医療保険制度における「療養の給付」を補うために、1973年(昭和48年)の医療制度改革によって始まりました。
  高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った金額が一箇月(月初めから月末まで。)で、上限金額を超えた場合にその超過分を保険者が支払う制度です。
  この場合の「上限金額」は、年齢や収入により異なる額ですが、下表は69歳以下の一般の勤労者場合をグラフ化したものです。
  このグラフに見えるように、例えば年収が370万円超770万円以下の被保険者であれば約8万円になっています。
  また、このグラフには書かれていませんが、年に4回以上高額療養費に該当する事態になった場合には、4回目からは更に上限額は約4万円くらいまで引き下げられます。


  複数の医療機関で支払った場合には、基本的にはその医療費を合算することが出来ますが、1医療機関当たり2万1千円以上のものが合算対象になりますので、10箇所の医療機関でそれぞれ2万円づつ支払って20万円になった場合でも高額療養費給付の対象にはなりません。


  また、この制度には歴月で集計するという特徴があります。
  したがって、同じ1箇月の入院でも月初めの1日から30日までで1箇月以内に収まれば、自己負担額は約8万円で済みますが、前月の15日から今月の14日までのように月をまたぐと自己負担額は2か月分となり、約16万円になります。
  この1箇月とは、あくまでも診療期間に対応するもので、退院日に2箇月分を一括して支払ったとしても、1箇月分とは見做されません。


  したがって、もし入院するなら月初めにして、月末までに退院するのが有利です。


  しかしながら、病床の空きの有無や医療スタッフの日程調整の都合などが有って、なかなか思いどうりにはならないのが現状です。


  因みに伊賀山人の場合には、検査入院2週間、手術入院2週間で、1箇月以内に済ませれば、自己負担は8万円で済んだのですが、一時退院なども有って3箇月に分散したため、自己負担は24万円になりました。


  なお、先に述べた「療養の給付」については、医療機関の窓口で負担額だけを支払う制度になっていますが、この「高額療養費」については、加入者が保険者に自己申告して請求する建前になっています。
  しかし、保険者の方も医療機関や薬局から送付される「診療報酬明細書」を確認して個別の加入者の高額療養該当の有無を承知しているので、逆に保険者から加入者に請求書の書き方や添付書類の種類を明らかにして申請を求めることが殆どです。
  伊賀山人の場合には、退院の2箇月後に役所から通知が来ました。
  直ちに申請して、給付額が銀行に振り込まれたのは更に2箇月後でした。
  つまり、支払から給付分の受領まで4箇月もかかるのが難点です。
  役所で事前に手続して、「限度額適用認定証」等の交付を受けておくと、医療機関の窓口での支払いを限度額以内に抑えることもできます。 
  


5 保険未加入者の場合
  国民皆保険とは言うものの、自営業者などが加入する「国民健康保険」については保険料を長期に滞納して、保険給付を受けられない人も現実には存在します。
  このような人は、未納分の保険料を過去にさかのぼって支払うことにより、保険給付を受けることが出来ます。
  何年前までさかのぼって支払うかについては、市町村ごとに異なりますが、多くの市町村では保険料を「保険税」として税金扱いしていますので、その時効である5年前までさかのぼる場合が多いようですが、詳細は各役所に問い合わせる必要があります。
  5年分の保険料となると、個人の収入によって異なりますが、多分100万円以上になるでしょう。


  支払については、役所に相談すれば分割払いにも応じてもらえますが、緊急に癌手術を要するなど万止むを得ない場合には他の市町村に転居することにより、新しい市町村で当面は無償で国民健康保険に加入することが出来ます。
  それまで住んでいた前市町村への債務(滞納金)については、新市町村とは関係ありませんので当面の支払いは回避できますが、債務そのものが消滅するわけではないので、返済については引き続き前の市町村と協議することになります。


  保険料を滞納し督促にも応じない場合には、保険証を返還することになります。
  その際、滞納期間が1年以内であれば「短期被保険者証」が現市町村から公布されて保険を受けられますが、この有効期間は6か月以内です。
  1年以上滞納した場合には、「被保険者資格証明書」というものが交付されて、医療機関の窓口で取りあえず全額を支払って後から7割分を役所に請求する建前になっていますが、現実にはその7割分は医療機関から役所に送金されて滞納金と相殺されるので、7割分が滞納金を超える程の高額の医療を受けたのでなければ返還されることはありません。
  滞納期間が1年6箇月以上になると、保険給付の全部または一部が差し止められます。こうなると、医療費は全額自己負担となり、保険給付分の事後払いもなくなります。
  なお、上記の滞納者に対する措置については一般的なものを書いていますが、正確には保険者たる市町村ごとに異なりますので、詳細は各役所に問い合わせる必要があります。


6 その他
  先にも書きましたが、健康保険制度では、休業補償まではされませんので、リスク管理として民間の医療保険やがん保険に加入するのも有力な一案ですが、大抵の人は元は取れません。
  10年以上前に伊賀山人も保険料100万円を一括払いの掛け捨てで支払って民間の医療保険に入りましたが、入院給付は1日5千円です。
  つまり、これは肝臓癌の伊賀山人であっても、10回位手術をして200日以上入院しなければ元が取れないほど達成困難なものです。
  そもそも、保険とは相互扶助の精神によるものだと割り切っています。


7 結言
  我が国の医療制度では、保険診療を受けている限りは、個人負担は一定の額の範囲内で収まるしくみになっています。
  しかしながら、臓器移植の一部で保険のきかない療養を海外で受けるような場合には、数千万円の自己負担が必要になります。
  そのような場合に、医療費負担を最小限にする最終最後の手段としては「〇〇ちゃんを救う会」を立ち上げることです。
  これは特に患者が幼い子供の場合には効果があり、マスコミで報道などされると億単位の寄付金を集めることが出来ます。
  今後、どこかで「伊賀山人ちゃんを救う会」の募金箱を見つけた折には、読者各位も迷わずお金を入れてください。紙のお金であれば申し分ありません。



 (今日の伊賀山人大コスモス園)



 (今日の来訪者)