パティ・ペイジTennessee Waltz(テネシーワルツ:田納西華爾滋)
「テネシーワルツ」(Tennessee Waltz,The Tennessee Waltz:カバー版では既に周知の曲であることから定冠詞を付けているものも有る)は、アメリカのカントリーソングバンドであるゴールデン・ウエスト・カウボーイズ(正式表示は、Pee Wee King & His Golden West Cowboys)のバンドリーダーであったピー・ウィー・キング(Pee Wee King、1914年2月18日 - 2000年3月7日)が作った曲に、バンドのボーカリストであったレッド・スチュワート (Redd Stewart、1923年5月27日 - 2003年8月2日)が詞をつけて1946年に完成した楽曲です。
この楽曲は録音までに時間がかかり、1948年1月になって漸くゴールデン・ウエスト・カウボーイズが発表し、その直後の3月にはゴールデン・ウエスト・カウボーイズの元メンバーであったカウボーイ・コパズがカバーして、いずれもヒットチャート上位を獲得しました。
その2年後の1950年になってパティ・ペイジ(Patti Page、本名:Clara Ann Fowler、1927年11月8日 - 2013年1月1日)が一人三重唱でカバーしたものが600万枚を売り上げる大ヒットとなりました。
1965年にテネシー州はこの曲を公式に第4の州歌としています。
パティ・ペイジはアメリカ合衆国オクラホマ州の出身で、本名はクララ・アン・フォウラー(Clara Ann Fowler)といいます。
クララは18歳の時、地元の高校を卒業して実家の近くにあるラジオ局に事務員として就職しました。
当時このラジオ局から「パティという名の少女が旅をしながら行く先々で歌を歌う」という趣向の15分番組が放送されていました。
主役のパティーを演じて歌を歌っていたのは、勿論プロの女歌手でしたが、偶々この歌手が急病を発症して番組に出られないという事態が発生しました。
当然ながら当時の放送は生放送ですので、慌てたプロデューサーが急遽局内で代役にできる女子を探したところ、偶々声が好く歌の上手い新入社員のクララに白羽の矢が立ちました。
主役である以上、芸名が必要でしたが、余りにも突然のことで何も考えていなかったクララは、役名の「パティ」とこの番組のスポンサー名の「ペイジ乳業株式会社」を組み合わせて、「パティ・ペイジ」という間に合わせの芸名を名乗ることにしました。
その後、60年以上に亘って終生歌手活動を続け数多くのヒット曲に恵まれて、誰からも敬愛されるアメリカを代表する国民的歌手に成長するパティ・ペイジ誕生の瞬間でした。
これを契機にプロ歌手としてデビューしたパティ・ペイジは、1948年に「Confess(告白する)」というデュエット曲を発表しますが、別の歌手を起用するだけの予算が不足していたパティは、一人で二人分のパートを二重録音してレコードを完成しました。
このやり方が気に入ったパティは、その後も一人で二重唱から四重唱に至るまでの多重録音の楽曲を発表しましたが、目新しさも手伝って多くの曲がヒットしました。
中でも、今回ご紹介する一人三重唱の「テネシーワルツ」は、カバー曲であるにも拘らず、カウボーイズらの原唱を遙かに凌ぐマルチミリオンヒットとなりました。
なお、この楽曲は元々、男が歌う男の曲です。
男の曲としての歌詞の内容は、「恋人(女)とテネシーワルツを踊っていたら、偶々古い友達(男)に再会した。そこで、自分の恋人を紹介したら、なんと、その友達に恋人を盗まれてしまった。」というようなものです。
しかしながら、原唱のカウボーイズらの歌い方には、じめじめしたものはなく、「いや~あいつにしてやられたよ~ ハッハッハ~」と明るく笑い飛ばすような歌い方です。
これは、現在でも男歌手がカバーする時には同様です。
パティは、これを女の歌に変更して、悲しさと寂しさとを詠ずるアレンジにしています。
蛇足ながら、日本では男の歌を女が、或いはその逆に女の歌を男がそのまま歌うこともよくありますが、アメリカではそのようなことは滅多になく、男は男の歌を、女は女の歌を歌うのが原則です。
英語には男言葉、女言葉の別はありませんので、歌詞の性別を変えるのは簡単です。
この「テネシーワルツ」では、「古い友達」を表わす代名詞の「him」を「her」に変えるだけで片付けています。
そのため、男である恋人を「my little(小さくて可愛い) darling」と表現するような不自然さは残っています。
また、この楽曲の特徴は、一風変わった「歌中歌」の形式をとっていることです。
即ち、第一句目で主人公は、バックで演奏されている「テネシーワルツ」の曲に合わせて踊っていることになっていますが、後にも先にも世界中で「テネシーワルツ」という題名の曲はこの一曲だけです。
つまり、未だ発表されていない曲に合わせて踊っていることになります。
しかも、主人公は、バックの未発表曲の歌詞の内容と全く同じ体験をしていることになるという、どう考えても不思議な構成になっています。
「絹の声」と評されたパティ・ペイジ、歌手生活60有余年を経て「麻の声」になるまで、何度も何度もこの楽曲をセルフカバーしていますが、今回は、初出から約10年後の録音でご紹介します。
初出との変更点は、モノラルからステレオになったことと、詞句の一部「I introduced her to my loved one」の主語「I」を省略して演唱していることです。
アメリカが生んだ国民的大歌手のパティ・ペイジ、存命であれば今日が91歳の誕生日ですが、5年前の元日に85歳で帰らぬ旅に出ました。
60数年前のラジオ番組の中で旅先で歌を歌う少女としてデビューした時のように、パティは新たな旅先でも歌を歌っていることでしょう。
Tennessee Waltz
Patti Page
I was dancing with my darling to the Tennessee Waltz
When an old friend I happened to see
(I) introduced her to my loved one
And while they were dancing
My friend stole my sweetheart from me
I remember the night and the Tennessee Waltz
Now I know just how much I have lost
Yes, I lost my little darling
The night they were playing the beautiful Tennessee Waltz
テネシーワルツ
パティ・ペイジ
私は愛しいあの人と、テネシーワルツを踊っていたら
偶然古い友達に出合ったの
私は彼女に、私の恋人を紹介したの
すると 彼と彼女が一緒に踊っているうちに
私の友達は私の最愛の彼を私から盗んでしまったの
私は、あの夜とあのテネシーワルツを忘れはしないわ
今、私はどれほど大切なものを失ったのかが本当に解ってきたの
そう、私は可愛い恋人を失ったの
楽団が、美しいテネシーワルツを演奏していたあの夜に…
田納西華爾滋
佩蒂佩姬
我和情人共舞著一曲田納西華爾滋
當我看見了一位老朋友
我將她介紹給我的情人
當他們倆共舞時
我的朋友從我身邊偷走了我的甜心的情人
我還記得那一夜和田納西華爾滋
如今我才明白我失去了多少
是的,我失去了我的可愛的情人
在樂隊演奏著美麗的田納西華爾滋的那一夜
筆者注:
英語原詞の最後の一句に見える「The night they were playing ・・」の主語「 they 」は「彼と彼女」の意とも解せなくはありませんが、伊賀流文脈判断により、ここではテネシーワルツを演奏していた「楽団の奏者」と解釈して翻訳しておきます。
おまけ【パティ・ペイジ80歳ごろの演唱です】↓
Patti Page "Tennessee Waltz"
恋歌には、現在を詠ずるものと過去を詠ずるものとがあります。
若者が現在の恋心を詠じている『チェインジング パートナーズ』のような楽曲は年取ってから歌うと違和感がありますが、この『テネシー・ワルツ』のように過去の思い出を詠ずるものは80歳になって演唱しても全く違和感がありません。
老境に在るパティー・ペイジの演唱に、聴衆が感動して涙ぐんでいるのはそのことも一因となっています。
2019.7.19 伊賀山人
パティ・ペイジ Changing partners(チェインジング パートナーズ:交換舞伴)は、こちら▽
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