伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

盼(パン:切に願う)


 「盼」(パン:切に願う)は、台灣の歌手潘安邦(パン・アンバン、1954年9月10日ー2013年2月3日)が1979年11月に発表したデビューアルバム〈外婆的澎湖灣〉全12曲中のA面第1曲目に収録している楽曲です。
 アルバムと同名の表題曲である「外婆的澎湖灣」がB面の1曲目であることを考えると、潘安邦はこの「盼」を非常に重要視していたことが分かります。


 作詞・作曲は台灣の校園民歌(學園フォークソング)の草分け的存在である自作自演歌手の周興立(チョウ・シンリー)です。
 この人は、1976年にアメリカのコロンビア大学に留学して2つの修士号と教育博士号を取得した大変な勉強家です。
 楽曲は優雅精緻な作風で知られており、1977年から台灣で校園民歌を次々に発表して大学生の間で絶大な人気を博しました。


 今回ご紹介する「盼」もその中の一つで、歌詞は基本的に1句6文字からなる4句、即ち僅か24文字を1首とする詩からなっています。


 詩題の「盼」(へん、パン)とは、日本語では「へん」と読んで「目元が美しい」という形容詞の用法が主ですが、漢語では「パン」と読んで「切に望む」「顧みる」という動詞の用法の方が多く使われています。
 この楽曲では、憧れの人への想いを漂う雲に託して寄せつつ、その人からの手紙が来ることや、「幸運的草」が茂って緑の草原になることを待ち望む心境を表わしています。
 なお、この「幸運的草」とは、所謂四つ葉のクローバーのことで、四つの葉の意味は諸説ありますが、主なものは「希望・誠実・愛情・幸運」或いは「名譽・財富・愛情・健康」を象徴しているとする説などです。
 蛇足ながら、キリスト教圏では、新約聖書「コリント人への第一の手紙」13章13節に見える「それゆえ、信仰と希望と愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは愛である。」との記述を踏まえて、三つ葉のクローバーは「信仰・希望・愛」を象徴し、十字架を彷彿させる四つ葉のクローバーは更にそれに「幸福」を加えたものと解釈されています。


 周興立は、この24文字からなる「盼」と題する詩を複数作っており、この同名の楽曲ではその内2首を使用しています。
 また、潘安邦が1981年7月に発表した自身4枚目となるアルバム〈回家〉の中では、4 曲目に収録している蔡琴とのデュエット曲《盼与寄》でも少し内容は異なりますが 2首を使用しています。


 演唱者の潘安邦は、「台彎民歌王」と称されて80年代に活躍しましたが、校園民歌が下火になった90年代には余り目立った活動はしていません。
 2000年になってから本格的に活動を再開しましたが、2011年に腎臟癌を患い2013年2月3日、58歳で早逝しています。


 校園民歌は台灣本土では既に没落しているものの、内容が清新で曲調が優美なものが多いため學校の音楽の教科書には多くのものが掲載されています。
 また、異郷に所在する台湾人にとっては故郷台灣の風花雪月を詠じて郷愁を誘う楽曲が多いことから今でも伝承されて不滅の地位を保っています。



 
 
切に願ふ
                作詞・作曲:周興立博士    演唱:潘安邦
(其一)
我把想你的心 託給飄過的雲
願我讚美的風 帶來喜悅的信

我れ你(なんじ)を想ふ心を把(と)りて 飄(ただよ)ひ過(よ)ぎる雲に託給せむ
願はくは我が讚美の風 喜悅の信を帶來せよ

私はあなたを想う心を 漂う雲に託して届けよう
願わくは私が賛美する風よ 喜びにあふれる手紙を持ち来たれ


(其二)
我把想你的心 託給飄過的雲
願那幸運的草 化爲永恆的綠

我れ你(なんじ)を想ふ心を把(と)りて 飄(ただよ)ひ過(よ)ぎる雲に託給せむ
願はくは那(か)の幸運の草 化して永恆(えいこう)の綠を為せ

私はあなたを想う心を 漂う雲に託して届けよう
願わくは福をもたらす幸運の草よ 青々と茂って永遠の緑となれ


(其一・其二再唱)


(其一再唱)




潘安邦 - 盼 / Expect (by An-Bang Pan)


 追記:

 この記事は3月6日に掲載したものですが、台灣で周興立博士に関するウィキペディアを編纂されているエミ老師から誤記のご指摘がありましたので修文して再掲しました。

 エミ老師には、この場を借りて篤く御礼申し上げます。

                 20019.3.12 伊賀山人敬白