酒の十徳
【酒の十徳: 川崎洋岳書】
江戸時代に、『餅酒論(もちさけろん)』という一種の知的な遊びが流行しておりました。
これは、餅が好きな人と酒が好きな人とが集まり、餅組と酒組の二組に分かれて、餅と酒のどちらがすばらしいかという議論をたたかわすものです。
餅組は餅の良いところと酒の悪いところを論じ、酒組はその反対を論ずる、これが『餅酒論』です。
結論としては、酒も餅も適度に飲食するのが良いということで決着がつくのですが、この『餅酒論』の結論として酒組のまとめた「酒の十徳」というものがあります。
これは酒の持つ十の効用を並べあげて、酒を称賛したものです。
前回の「茶十徳」に続き、今回は「酒の十徳」をご紹介します。
なお、酒に効用があるのは、適度に飲んだ場合に限られます。
一気飲みやストレス解消のためのヤケ酒は逆効果になりますので、ご注意ください。
〇 百薬の長
ほどよく飲めば、万病に効く。
〇 寿命を延ばす
体に活気を漲らせて健康を保ち延命の効果がある。
〇 旅行に食あり
旅先で、疲れている時でも食欲を増進する。
〇 寒気に衣あり
寒いときに酒を飲むと衣のように体が温まる。
〇 推参に便あり
お祝いやお見舞い、お土産などに持っていくと喜ばれる。
〇 愁いを払う玉箒
嫌なことを忘れさせてくれて、心の愁いを払ってくれる。
〇 位なくして貴人に交わる
身分の上下を越えて交友できる。
〇 労を助く
疲れた体を酒が癒してくれる。
〇 万人と和合す
酒は人の心を開き、多くの人と出会い、親しくなれる。
〇 独居の友となる
独り淋しいときには、友人のように自分を励ましてくれる。
もっとも、酒に十徳があるのは、あくまでも適度の飲酒に限られます。
度を過ぎた深酒や、量は少なくても元々アルコールを受け付けない体質の方が飲酒することは百害あって一利ありません。
古文書にも、酒の効用ばかりではなく、「狂水(くるいみず)」「地獄湯(じごくとう)」「狂薬(きょうやく)」「万病源(まんびょうのもと)」などといった言葉で酒害を説いているものもあるのです。
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