伊賀の徒然草

伊賀名張の山中に閑居して病を養う隠者の戯言です。

立春雑感


 本日、2月4日は二十四節気の「立春」です。


 「春立ちぬ」とはいえ、決して暖かくはなく、まだ冬だと考える方も少なくないでしょう。
 このように季節感がズレている原因は、西洋と東洋とで、春の区分が異なることにあります。


 西洋のSpringは、既に暖かくなっている春分から夏至まで(3月20日頃~6月21日頃)とされています。


 これに対し、東洋においては、古来、春分を春の中心として、その前後各1.5箇月間(2月4日頃~5月5日頃)を春と定義しています。

 つまり、西洋と東洋とでは、春の期間に1.5箇月のズレが有るのです。


 この為、東洋に於いては、立春とは冬至と春分との中間の1年中で最も寒い2月4日頃で、これから少しづつ暖かくなるだろうと希望が持てる時期から春になります。


 明治の初期に英語の「Spring」の訳語として「春」の字を充てたことから混乱が生じました。
 文明開化を推進する当時においては、欧化主義が横行しており、「西洋のものなら何でもよい」という考えすら出ておりました。
 この為、所謂文化人を中心に西洋の「Spring」が、春の概念として国民に浸透してゆきました。
 その結果、東洋の「漸く氷も融け始めてこれから少しづつ暖かくなる」という本来の立春の概念が忘れ去られてしまいました。


 1913年(大正2年)に発表された東京音楽学校(現東京藝術大学音楽学部)教授の吉丸一昌作詞の唱歌「早春賦」(そうしゅんふ)に於いては、「春は名のみの 風の寒さや」と詠われています。
 東洋の春の概念では、早春は寒くて当然なのですが、大正時代になると音楽学校の教授ですら、既に西洋の春のイメージに引きずられていたことが分かります。


 現在、日本の気象庁では、季節の区切りとして東洋と西洋との間を取り、3月 ~ 5月が春であると定義しています。 
 このことも、「立春」の季節感を約1箇月狂わす原因となっています。 


 なお、二十四節気の「立春」とは、本日1日限りのことを意味するだけではなく、「雨水」までの15日間の期間を指すことも有ります。
 期間として捉える場合に、二十四節気を更に3分割した七十二候というものがあります。
 因みに今の時期、立春から5日間は、七十二候では「東風解凍」といい、東から春風が吹き始めて漸く氷が融けだす頃という本来の立春の季節感をよく表しています。


 「梅一輪一輪ほどの暖かさ」


 立春にあたり、謹んで新春のお慶びを申し上げますと共に、東風解凍の候、読者各位益々のご健康とご多幸を伊賀山中からお祈り申し上げます。  伊賀山人敬白




   立春即時
                 伊賀山人作五言古詩去聲四寘韻
 春日白珠雨
 疑是天女涙
 遙想玉山頭
 可憐雲中思