平等院のキューピッド
【平等院鳳凰堂】
【十円硬貨】
十円玉の図柄でお馴染みの、京都府宇治市にある国宝平等院鳳凰堂は、今から約千年前に、時の関白藤原頼通が建立したもので、堂内には、平安時代の最高の仏師定朝によって制作された阿弥陀如来坐像や雲中菩薩像など数多の国宝が安置されており、世界遺産にも登録されています。
平等院が創建された京都南郊の宇治の地は平安時代の貴族の別荘地でもありました。
鳳凰堂建立のコンセプトは、西方浄土をこの宇治の地に再現することにありました。
上掲の鳳凰堂(阿弥陀堂ともいう)の画像中心部に阿弥陀如来が小さく見えておりますが、西方浄土の阿弥陀様が東向き、つまり現世であるこちらを向いて座っている様子が再現されています。
なお、画像では、阿弥陀様の頭の上の方が屋根の庇で少し見えなくなっていますが、これは、後世になって池の増水に備え、参拝者の立つ手前の土手が嵩上げされたことによります。
【阿弥陀如来坐像】
堂内には、高さ284㎝の阿弥陀如来座像が安置されています。
そして、その背面と左右側面の壁には、雲中供養菩薩52体が配置されており、背面の中央から左側(南側)と右側(北側)それぞれに26号ずつの番号が付けられています。
この雲中菩薩は、阿弥陀様が大きいため、画像では小さく見えますが、高さは、平均約60㎝、大きいものでは90㎝にも及びます。
いずれの菩薩も飛雲に乗っていますが、各菩薩のポーズは変化に富み、琴、琵琶、縦笛、横笛、笙、太鼓、鼓、鉦鼓などの楽器を演奏する菩薩が27体あり、他には立って舞うもの、合掌するもの、幡や蓮華などを持つものなどもあります。
全52体のうち半数の26体は、境内南側にある博物館の鳳翔館に移されています。
【弓と矢を持つ雲中菩薩】(CGによる復元彩色画)
上掲の菩薩は、「南24号」と名付けられた雲中菩薩です。
この菩薩は、寄る年波には勝てず、右腕が欠損していましたが、修復の過程で、弓と矢を持っていたことが確認されました。
総じて、雲中菩薩の役割は、阿弥陀様と行動を共にして、現世と浄土とを往来する衆生の霊魂を慰めることにあります。
そのため、楽器などを持つ雲中菩薩が多い中で、何故、たった一人だけ、武器を持っているのでありましょうか。
この菩薩の修復時には、その背中に一つの文字が墨書されていることも発見されました。
その文字は、経年変化により肉眼で読むことはできませんでしたが、X線写真の解析結果、「愛」と書かれていることが確認されました。
これにより、この菩薩の本名が、「金剛愛菩薩」だと判明したのであります。
「金剛愛菩薩」とは、一切の衆生を愛憐し慈悲の目をもって一切の魔、一切の煩悩(いわゆる三毒)を射し払ってくれる有難い菩薩なのであります。
弓矢を手にして、頭上に光輪を配し、愛を掌るこの菩薩こそ正に、平等院のキューピッドなのであります。
【雲中金剛愛菩薩】
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