漢詩を作る(理屈編)
《王子江作 杜牧「江南の春」詩意圖 NHKラジオテキストから引用》
本格的に漢詩を作ろうとすると、少なくとも一冊の解説書と漢和辞典が必要となります。
ここでは、ほんの概要のみをご紹介します。
漢詩には、大きく分けて、古体詩、近体詩、新体詩の3種類があります。
古体詩は、韻を踏むだけで他には余り厳格な決まりごとはありません。新体詩は、散文詩のようなもので、白話(話し言葉)で自由に作ることができます。私が主に取り組んでいるのは、最も厳格な約束事のある近体詩です。
近体詩は、今から千数百年前の唐の時代に、それまで残されていた幾多の古体詩の形式を検討した結果、韻律やリズムなどが最も心地よく聞こえるような幾つかの形式に纏めて定めたものです。
近体詩の主な約束事は、次の3点です。
1 「定型詩」であること
1句が5言又は7言、1首が4句、8句又はそれ以上の偶数句からなること。更に各区の区切りは、2言・2言・3言(5言詩の場合は、2言・3言)であること。日本の和歌や俳句と似ていますが、字余り・字足らずの例外はありません。
定型詩の種類ごとに名称が定められています。例えば、7言4句であれば七言絶句、5言8句であれば五言律詩と称します。
2 「押韻詩」であること
定められた場所、通常は偶数句、場合によっては初句も含めた句の末尾の語尾に韻を踏む必要があります。漢詩に使われている漢字は約4万字あると言われていますがその全ては106の韻字に区分されています。「梅」、「開」など日本語の音読みでもある程度理解できますが、正確なことは漢和辞典を引いて確かめる必要があります。
3 「平仄式」に従うこと
これが最もやっかいな決まり事です。
漢字は1語1音(1音節)からなっています。日本語の音読みの振り仮名の数とは関係ありません。日本語の音は50音くらいしかありませんが、漢語では約400音あるとされています。それにしても総数約4万字の漢字に割り振ると、同音異義語が平均100字にもなり漢詩を音読する場合には支障をきたすことになってしまいます。これを少しでも緩和軽減するために漢語では、各音ごとに4種類の異なるアクセントを定めています。これを四声と言います。日本語で「雨」と「飴」とをアクセントで区別するようなものです。
四声は、ノーアクセントの「平声」の他に、尻上がり、尻下がり、語尾がつまるなどのアクセントがある「上声」「去声」「入声」があります。「平声」以外のアクセントのある三声をまとめて「仄声」といいます。これらは、全て漢和辞典で確認することができます。
漢詩では、この「平声」と「仄声」の配置が、詩の種類ごとに厳格に決められています。これを平仄式といいます。
この平仄式に従うことにより、唐代の漢人が聞いたとしたら、天にも昇るかのような心地よい響きとリズムが得られるのです。音楽でいえば、既に曲ができているようなものです。後は、その曲に合った詩語を選んでパズルのように当てはめるだけのことです。
以上の他にも、更に上乗せ規則として「同字重出を避ける」や「和臭を忌む」などがあり、逆に緩和規定として「一三五不論」などがありますが、ここでは割愛します。
それでは、作例として、最も字数の少ない五言絶句を取り上げてみます。
これは、一句五言、全四句の20字からなります。各句を初句から、起句、承句、転句、結句といいます。各句の性格は次のとおりです。
起句は、詠い起しで感動の背景を述べます。
承句は、起句の内容の補足又は説明になります。
転句は、近くから遠くへ、叙景から抒情へのように、場面・発想を転換します。
結句は、転句を受けるとともに、詩全体を通した主題つまり結論を述べるもので、最も重要な句です。
同じ五言絶句でも、その平仄式の違いにより、正格、偏格、更にはそれらの変形の不粘格などがありますが、次回は、その代表として、五言絶句正格(仄起式)の作例をご紹介します。
次回へ続く・・・
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